★★★☆☆
あらすじ
ある大学に勤める女性とその周辺の人々の、東日本大震災直後からの三年間を描く。
感想
元Ⅹ Japanのタイジやスティーブ・ジョブス、桜塚やっくんなど、物語で描かれる期間の周辺に亡くなった有名人たちの名前がたくさん登場し、彼らの死に対する登場人物たちの反応が描かれていく。もちろん彼らは死んだ有名人らとは直接の知り合いではないので、彼らの言及の仕方は我々一般人と全く同じ。厳粛な面持ちで哀悼の意を表すなんてことはせず、数あるトピックの一つとして扱われる。だから亡くなったばかりの故人に対して反応があまりにポップで不謹慎じゃないかと、勝手に冷や冷やしてしまう場面もある。
だけど、思ってしまうものは仕方がない。心って、人にみられないことが本当に便利だな。
p68
だが有名人の死への向き合い方は案外難しい。活躍を知っている人なので、悲しいかと問われればもちろん悲しいのだが、だからといって号泣してしまうほどではなく、畏まって追悼すると言うのも大げさな気がしてしまう。思い入れの度合いにもよるのだろうが、知っている情報で軽く雑談をするぐらいの登場人物たちの態度の方が、より標準的で自然だろう。SNSで「R.I.P.」とかわざわざ「誰?知らない」と呟くよりはリアルに感じる。不謹慎かもしれないが実際そうなのだら仕方がない、と敢えて作品に書いてしまう著者の強さに感心する。
しかし、有名人の名前を聞いて、思い浮かべることが皆違うというのは面白い。声優であれば思い浮かべるキャラクターが違ったり、歌手であれば曲が違ったりする。さすがにこの小説のように、その歌手が出ていたゲームを最初に思い出したりするのはかなり特殊だと思うが。でも歌手には興味がないゲーム好きの人間だったからそういう変な思い出し方になったわけで、どう出会うかでその人にとってのイメージが勝手に決まってしまうというのは興味深い。
各登場人物たちに順番に視点が切り替わりながら紡がれていく物語。有名人や身近な人たちの死に遭遇して、ぞれぞれが様々な思いを巡らしている。そんな行為を通しながら、多数の死者が出た大震災でおかしくなってしまった死者に対する態度や死に対する感覚が、少しずつ正常なものへと修復されていく過程が描かれているようにも思えた。
著者
登場する作品
細マッチョ肉体改造法 チャンピオンを作った短時間の頭脳派メソッド