★★★☆☆
あらすじ
失業した夫とうまくいっていない姉と、それを心配してかつて彼女が想いを寄せた男とくっつけようと画策する妹。112分。
感想
常に姉は着物で、妹は洋服のファッションが象徴的だが、保守的な姉と進歩的な妹、二人の姉妹の物語だ。同じ姉妹なのになぜこうも違うのかと訝しんでしまうが、きっと戦争が影響しているのだろう。
戦争中と敗戦後では世の中は180度変わった。多感な時期をどちらで過ごしたかで、考え方も当然変わるはずだ。それが二人の性格を違うものにしたのだろう。今だと戦争経験者かどうかの区別しかないが(その区別もほぼなくなった)、当時は何歳の時に戦争を体験したのかは、相手を判断する上で重要な情報だったのかもしれない。
ずっと想いを寄せる人がありながら、黙って夫に付き従う姉とは対照的に、進歩的な妹は奔放だ。平気で義兄の文句を言って、姉の意中の人に会いに行ってけしかけたりする。この妹を演じる高峰秀子が、愛嬌があって可愛らしい。意中の人の心中を推しはかり、おどけてまるで講談師のように好き勝手に実況するシーンは面白かった。
やがて姉は、彼女に意中の人がいたことを気にする夫と言い争いとなり、夫婦の亀裂は決定的なものとなる。この時夫は手を出してしまうのだが、それがあまりにも激しくて震えた。
この夫は顔の見えない影のようなキャラクターとして描かれている。不愛想で偉そうで時には暴力を振る一家の支配者を特徴的に表現しているのだろう。他の家族には理不尽な存在だ。妻だけでなく進歩的な義妹ですら召使いのように服従しているのが印象的だった。姉妹は家長の気配を窺いながら生活しており、家庭における彼の異物感は半端ない。
ラストは姉の想いがついに果たされてハッピーエンドかと思ったら、そうはならなかった。落胆させられたが、その気持ちは分からないこともない。彼女は女版の高倉健だと思えばいいのだろう。両思いだと分かっていても、こんな自分はあなたにはもったいない、不器用ですから、ということだろう。自分に厳しい。
そしてそんな主人公を、古いタイプの人だから、で済まさないところが深い。「古くならないものが新しい」という主人公の言葉には考えさせられる。背景には、敗戦後にコロッと態度を変え、古いものは捨てて新しいものに飛びつく世の風潮に対する批判があったのかもしれない。だが結局は、自分が思うとおりに生きればいい、と笠智衆演じる父親に語らせるあたりは品の良さを感じる。
冷たい男やバイオレンスの描写などに、この二年前の監督の作品「風の中の牝鶏」との共通点を感じる映画でもある。
スタッフ/キャスト
監督/脚本
脚本 野田高梧
出演 田中絹代/高峰秀子/上原謙/高杉早苗/山村聡/堀雄二/河村黎吉/斎藤達雄/藤原釜足/坪内美子/一の宮あつ子/堀越節子/千石規子