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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「流れる」 1956

流れる

★★★★☆

 

あらすじ

 金策に追われる芸者置屋で働き始めた女中。

 

感想

 外からやって来た田中絹代演じる女中の目を通して、芸者の世界の裏側が描かれていく。この女中は品が良くて気も利いて、人生経験を積んできた年配ならではの穏やかさを持っているなと思って見ていたのだが、まだ45歳という設定に驚いた。

 

 演じる田中絹代もこの当時は実際にそのくらいの年齢だ。昔の人は苦労の度合いが今とは全然違うから、老けるのが早かったのかもしれない。文明が発達して色々便利になったはずなのに今も相変わらず忙しいままだ、という皮肉があるが、それでも確実に人々の暮らしは楽になっているのだろうなと実感した。今45歳の女性がこの役をやっても、若すぎて違和感しかないような気がする。

 

 

 男のために借金をするも逃げられ金策に追われる芸者の女主人を中心に、置屋を出入りする人たちの人間模様が描かれる。芸者たちがお座敷に出た様子は一切描かれないので、華やかな舞台のバックステージにずっといるような気分になる。

 

 しかし置屋は、芸者の詰め所としてもっと事務的な雰囲気かと思っていたが、居候の母娘や女主人の娘など、芸者とは関係ない人たちが住み込んでいたりして、ずいぶんと所帯じみていた。

 

 それから関係ないが、この置屋で一番偉いのは猫、などと言っている割には、飼い猫の扱いがかなり雑だったのはちょっと面白かった。首の後ろをつまんで運んだり、放り投げたりしている。猫の扱い方も時代とともに変化したということなのだろう。

 

 ほぼ女性しか出てこない舞台裏では、女たちの悲喜こもごもの人間模様が映し出される。金策に困っても好きでもない男に頼れず、昔の男に袖にされて涙を浮かべる不器用な女主人や、そんな母親を見て新たな生き方を模索する娘、そんな様子をどこか冷めた視線で見ている通いの芸者たち。その芸者たちもまたそれぞれの事情を抱えている。

 

 苦境でも気丈に振る舞う女主人を演じる山田五十鈴や、若くて皆と少し感覚が違う芸者を演じる岡田茉莉子など、登場する役者陣が皆良い演技を見せている。そんな中で特に印象に残るのは、少し歳のいった芸者を演じる杉村春子だ。ベテランならではの達観はありながら、それでも喜怒哀楽を露わにしていて、とても人間味があった。怒って威勢よく置屋を飛び出すも戻ってきた時の、気まずそうに玄関をうろつく様子はまるで寅さんのようで可笑しかった。

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 それから何かと女主人を助ける先輩の元芸者を演じる栗島すみ子も良かった。彼女は日本映画初期の大女優らしいが、あまり表情を変えず、口元しか動かない様子が独特の雰囲気を醸し出していた。最初はそれがとても頼もしく見えていたのに、時間と共に段々と怖くなってくる。こういう得体の知れない人はどこの世界にもいる。

 

 暗い未来が待ち受けていることも知らず、明るく前を向く置屋の面々を映し出すラストは、なんとも言えない気持ちにさせられた。女たちの生き様が見応えたっぷりに描かれた映画だ。

 

スタッフ/キャスト

監督 成瀬巳喜男

 

脚本 田中澄江/井手俊郎

 

原作 流れる(新潮文庫)

 

出演 田中絹代/山田五十鈴/高峰秀子/岡田茉莉子/杉村春子/栗島すみ子/中北千枝子/加東大介/宮口精二/仲谷昇/中村伸郎

 

流れる

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流れる - Wikipedia

 

 

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