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「凪待ち」 2019

凪待ち

★★★★☆

 

あらすじ

 子供を連れて地元に戻る恋人についていくことにした男は、思わぬ事件に遭遇し人生が狂っていく。

 

感想

 恋人の実家で共に暮らすことになった男が主人公。結婚していれば何の問題もないのだが、籍を入れていないことで色々と気を使ってしまいそうなシチュエーションだ。そして、結婚をするいいタイミングなのにそれをしないことに、彼らが何らかの事情や問題を抱えていることが読み取れる。

 

 そんな少し奇妙な共同生活を送る中、ある時悲惨な事件が起きる。それまでの話の流れから予想していた方向とは別の、そっちか、と驚いてしまうような意外な展開だった。そしてこの事件がますます主人公を居づらい状況にしてしまう。この後、物語は事件の真相を探る事に注力するのではなく、主人公が破滅的にギャンブルにのめり込んでいく姿を追っていく。事件のショックがそれを加速させたという側面もあるだろう。

 

 

 世話してもらった仕事も辞め、借金を重ねながら絶望的な状況に陥っていく主人公の姿は、他者の悪意の介在があったとはいえ、ほぼ自業自得で正直あまり同情する気にはなれない。恋人にギャンブルは止めると約束していたにもかかわらず、あまりためらうことなくあっさりと再度手を出すところからして駄目だなと思ってしまった。

 

 だがそんな彼に救いの手を差し伸べる人たちがいる。しかも優しい言葉をかけるとかそんなのじゃなくて、金銭的な援助までするのだから親切すぎるだろうと思ってしまうが、これは舞台が東北の震災被害にあった町だからなのかもしれない。確かに被災者いじめやヤクザによる除染の仕事のあっせんなど、震災がもたらした暗い影や人々の悪意もさらっと描かれてはいるが、あんなに多くの命があっけなく失われた今、生きてるだけでいいじゃないか、生きなきゃいけない、という被災地の人々の強い思いも感じられた。生きてる者同士、縁のある者同士、助け合って頑張っていこうという連帯感がそこにはある。

 

 そんな人々が差し出す好意を次々と踏みにじっていく主人公にはドン引きしてしまうが、でも逆に清々しくもある。人から好意を受ける資格のある人間ではない事を示すために、あえて駄目な方向へと突っ込んでいってしまう歪んだ心の持ち主だ。だがそんな彼も、どんなに裏切り続けても差し出される手に遂に悔い改めることになる。いい意味で心が折れた。再生しつつある街で主人公もまた再出発を図る。

 

 主演の香取慎吾は、もっさりとした小汚い風貌で、ろくでなし感がよく出ていた。それでいて無駄にガタイがいいのも、さらにタチが悪そうでそれも良い。演技の方はメリハリのないいつもの一本調子で残念な感じがあったが、終盤のクライマックスでの演技は意外と良くて心を掴まれた。演技になるといつも嫌々やっているように見えてしまう彼にこの役を与えたのは正解かもしれない。

 

 主人公が優しい人たちに囲まれすぎだったり、事件の描き方が淡白すぎだったりするのは少し気になった。だが事件と合わせて考えると、良い人に見えても、それをどんな意図でやっているかは分からないよという人間の怖さを示しているのだろう。自分も含めてそんな人間たちの中で我々は生きている。

 

 それから、事件の捜査で疑う刑事が主人公を挑発するように言う大事な決め台詞が何言っているのか全然分からなかったのは困った。何度か繰り返し見てなんとか聞き取れたが、東北弁ネイティブなら余裕だったのだろうか。それならそうじゃない人のために字幕を入れて欲しかった。

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スタッフ/キャスト

監督    白石和彌

 

出演 香取慎吾/恒松祐里/西田尚美/吉澤健/音尾琢真/リリー・フランキー/三浦誠己/黒田大輔/奥野瑛太/麿赤兒/不破万作/宮崎吐夢

 

音楽 安川午朗

 

凪待ち

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凪待ち - Wikipedia

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