★★★☆☆
あらすじ
何度か偶然出会ったことで親しくなった役人と日雇い労務者の二人。
感想
主人公である生真面目で線の細い官僚と、ハナ肇演じるガサツだが人の良い日雇い労働者の男の二人が、ふとしたきっかけから交流をするようになる。まったく違う種類の人間が出会う事で起きるコメディだが、その多くは主人公の一般家庭に入り込んだ男が笑いを生んでいる。ただ、古い映画という事もあってそんなに笑えるシーンはない。
男は、酔っぱらうとたちが悪いが、頼まれれば主人公や隣人の家の修繕をしたり、主人公が欲しがっていた庭石を見繕って持ってきてくれたりと、気の良い男だ。一晩お世話になった主人公一家にお礼を持って来たり、病人が元気になれば快気祝いと、そんな風に見えないのにきっちりとしている一面もあってそこが面白いのだが、それよりも、そんな男の誠実さが眩しくて仕方がなかった。
彼の陽気な振る舞いを見ていると、出来の悪い自分だが、せめて人様のためになる真っ当な人間でありたい、という男の想いがひしひしと伝わってくる。自分も含めて、最近はこんな人いないよなと。いい人だと思われたいとかそんな下心は一切なく、ただ相手が喜ぶことをしようと無心に行動している。
そんな男に好感を持ち、信頼を寄せる主人公。彼も最初は生真面目だけが取り柄の気弱な男かと思ったが、自殺未遂の女性を助けて家に住まわせたりと、意外と男らしい。官僚と日雇い労働者という普通なら交わることのなかっただろう二人が、友情を深める様子は心温まる。
ところが突然起きた不穏な事件。予期せぬ出来事にも関わらず、一瞬たりとも男に疑いを持たなかった主人公に胸が熱くなる。その一方で、修理をしてもらったりして喜んでいたくせに、あっさりと手のひら返しをする主人公の家族や隣人。だが世の中というのはそんなものだ。多くの人は何も考えずに、ただその場の状況に流されていく。世にいる悪人たちよりも、深く考えもせず現状を追認するだけの大衆の方がよほど怖い。
その事件の当事者でもある倍賞千恵子演じるヒロインは、ほとんど見せ場がなく、それどころか自殺未遂はするわ、暗くて何考えているか分からないわ、勝手に家を出て行くわで、滅茶苦茶イメージが悪い。なんだかちょっと可哀想だった。
不穏な事件をきっかけに、映画はどこか寂しい雰囲気をまとい出す。男の態度の変化や主人公の異動の話など、人生の侘しさを感じるような話が増えてくる。そんなシーンに何となくしみじみとしながら迎えたラスト。意外なハッピーエンドが待ち受けていたのだが、男らの思いもよらない変わりように驚いてしまって、少しついていけなかった。
ちなみに内容とは関係ないが、映画の主な舞台は茅ヶ崎。砂浜でのシーンで江の島と共に変な形の大きな建築物が映っていて、ああこれがサザンオールスターズの歌っていた「HOTEL PACIFIC」(パシフィック・ホテル)なのかと、軽く感動した。
スタッフ/キャスト
監督/脚本
脚本 森崎東
出演 ハナ肇/倍賞千恵子/有島一郎/中北千枝子/真山知子/久里千春/松村達雄/桜井センリ/犬塚弘/高原駿雄/穂積隆信
音楽 木下忠司