★★★★☆
あらすじ
城を失って没落し、商家に居候していた宇喜多家の長男は、やがて成長して浦上家に仕え、家の再興を目指す。
戦国大名、宇喜多直家を描く歴史小説。
感想
城を失って鞆の浦でひっそり暮らしていた宇喜多家を、備前福岡の商人が訪れるところから物語は始まる。一家は商人に面倒を見てもらうことになり、長男である主人公、宇喜多直家は、商人の町で幼少期を過ごす。
肩身の狭い思いをしながらも、商人たちの様子をつぶさに見て育った直家が、身につけた商人的感覚で備前を手中に収めていく様子が描かれていく。当時は商人は低く見られていたというが、資本主義の世の中で生きる今となっては、逆にその感覚がうまく理解できないところがある。
商人は米を作るでも戦うでもないので、当時の社会では存在意義を見出されにくかったのかもしれない。コロナ禍でエンタメ業界が見捨てられようとしたように、生きるのが精一杯な世の中だと、実用的でない仕事は軽視されがちになる。
商家で成長した直家は、やがて家の再興を目指して浦上家へ仕えることになる。その直前に慌てて武術を学ぶのだが、それと同時に年上の女性と深い仲にもなる。子供から大人へ、商人から武士に変わるための儀式だったのだろう。だが官能小説的な描写が延々と続き、別に嫌いではないが、さすがに食傷気味になった。
初陣で必死の武功を上げた直家は、城を与えられ家の再興を果たす。そして浦上家の命令をこなしつつ、徐々に地域で存在感を増していく。梟雄と言われる彼はその間に義父や大叔父を殺しているが、これは命令だったので仕方がない。だがしっかりと損得勘定をした上でこれを行っているのが面白い。もし名誉や忠義を重んじて行動するだけだったら、他家と同様に権謀術数の中で滅んでいたかもしれない。
やがて直家は、三村家や松田家といった有力者と対峙するようになるが、ここで大事なのは彼らの関係を知ることだ。どこかに攻め込む場合、その周辺の城主が味方するのか、相手側に付くのかで戦い方は大きく変わる。最初は周辺有力者の関係性を把握できていたのだが、次第におぼつかなくなってきた。
規模が大きくなるにつれ、敵が誰とどんな関係にあり、更にその関係者の相関図も考慮しなければならなくなってくる。中央の織田家や将軍家の動向も重要だ。こう動くと相手はこう動き、そうすると背後にいる誰かはこう動くから…と、まるで何手も先を読む将棋のようだ。よくもこんな複雑な関係を頭に入れながら戦えたものだと感心してしまう。これはどこでも似たようなものだったのか、関係性がややこしいと言われていた播磨や備前に限ったものだったのか、どっちだったのだろう?
それから実際はどうだったのか分からないが、直家と同じく備前福岡と関係の深い黒田官兵衛らの黒田家と幼い頃から関わりがあったとする描写も興味深かった。情勢が刻々と変化する中で、敵味方に分かれようとも交流を続ける様子はグッとくる。
ようやく備前を手中に収め、いよいよ織田や毛利と直接やり取りする局面となったところで、直家はその生涯を閉じる。もう終わり?と呆気なく思ってしまったが、各地の有力者を従わせたり倒したりして、一国すべてを支配するだけでも大変なことだ。あっちを攻め落としたと思えばこっちが裏切り…といった具合でなかなか順調には進まない。そう考えると、同じくらいの期間で天下統一が見えるくらいまで勢力を拡大した織田信長は、とてつもなかったのだなとそのすごさを痛感する。
家族や身内を大事にし、商人的感覚で対処する直家は、現代的で共感しやすいキャラクターだ。そして野望のためというよりも、家の安泰のために勢力を拡大し続ける様子は、成長し続けることが宿命の、資本主義下の企業の姿と重なって見える。
著者
垣根涼介
登場する人物
宇喜多直家
