★★★☆☆
あらすじ
不倫をするなど性的問題を起こした牧師は、1か月の隔離生活を送ることになる。
感想
性的問題を起こし隔離生活を送る主人公が書いた、手記の形式を取る小説だ。毎日書くように指示されたため、一日一章で一か月分、31の章からなっている。そこでは主人公が起こしてしまった事件についてや施設での生活の様子、神に対する考えなど、様々なトピックについて徒然に語られている。
主人公の語り口はシンプルなものではなく、持って回ったような回りくどい言い回しを多用したものとなっている。これは著者のスタイルなのか、問題を抱える主人公のキャラを反映させたものなのか、翻訳のせいなのかは分からないが、そのせいもあって全体的にうまく理解できない個所が多く、特に神に対する意見を述べる部分などは読み進めるのがかなり辛かった。事件について語る箇所は面白く読めたのだが。
考えてみると、日本の小説で仏教の教義についてあれこれ深く言うものはあまりないような気がするので、日本と欧米では宗教との関わり具合が違うのだなと実感する。もちろんこの小説は主人公が牧師だから宗教について多くが語られているわけだが、それでも著者は、一般読者がそれを理解できると踏んでこれを書いているはずだ。こういう場面に直面してしまうと、やはり聖書ぐらいは読んでおかないとなと思ってしまう。
主人公は、事件について反省しているというよりは、開き直っているように見える。聖書の内容にも批判的だ。聖書ではそう言っているが現実はこうなんです、仕方ないのです、と必死に言い訳をしているかのようだ。開き直っているというよりも、どうしてもそうなってしまうことを必死に訴えている、と言った方が正しいかもしれない。どうしようもないことだとあきらめている。
隔離生活が終わりを迎える最後も、そんなことを企んでいるのかと驚いてしまったが、しかも成功しちゃうのかよとなんだか笑ってしまった。そもそもこの手記自体が、それが目的だったと言えるかもしれない。
恐らく諧謔を交えた語り口なのだと思うが、それに気付かないくらいややこしい文章で、なかなか内容が頭に入ってこず、しんどさだけが募る小説だった。
著者
ジョン・アップダイク
登場する作品
「ヘブライとタルムード(Horæ Hebraicæ et Talmudicæ; Hebrew and Talmudical Exercitations Upon the Gospels)」
ユリシーズ 文庫版 全4巻完結セット (集英社文庫ヘリテージ)
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