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「日本の夜と霧」 1960

日本の夜と霧

★★★☆☆

 

あらすじ

 学生運動がきっかけで出会った男女の結婚式に、招待していない仲間が乱入し、運動をめぐっての激論が交わされる。107分。

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感想

 結婚式を舞台に、学生運動に参加する人びとのそれぞれの思いが描かれていく群像劇だ。結婚式で交わされる会話や議論をきっかけに過去が回想されつつ、物語が進行していく。カメラが長回しで不安定に動き回ったり、ダイナミックに回想シーンへと切り替わったりと面白い演出がなされている。

 

 それから役者たちがセリフを言い間違えたり言葉に詰まったりしたシーンが、撮り直されることなくそのまま使われているのも特徴的だ。特に役者がセリフを言い淀んでしまっているシーンでは、最後までちゃんと言い切ることができるのかと、物語とは関係なくドキドキしてしまった。ただ、明らかにセリフを覚えきれていない感じがするときは別として、言葉がすらすらと出てこない感じは妙にリアルで臨場感がある。現実の会話もこんな風に交わされている。

 

 

 なんでこんな粗い撮り方をしているのだろうと不思議だったが、政治的な内容なので上層部に撮影を止められてしまう恐れがあり、そうなる前に撮り切ってしまおうとスピード重視で撮影したかららしい。まるで舞台を見ているような感覚にもなったが、それもこの手法が影響しているのだろう。

 

 新郎と新婦は10歳ほど歳が離れており、新郎が学生だった10年前と、新婦の現在、二つの時期の学生運動の話が展開される。最初は上手く状況が飲み込めず戸惑ったが、段々と状況が理解できてくる。それぞれが運動にどのような思いを抱いて参加していたのかが描かれる。

 

 どちらの世代の学生運動にも、行方知れずとなった友人がいるのが共通しているトピックだ。その友人の消息に関するミステリーは惹きつけられる。だが運動についてのそれぞれの思想が詳細に語られるシーンは、最初は興味深かったが、長いので次第にダレてきてしまった。彼らの熱い言葉を聞いているうちに漂い出すのはぐったりするような不毛さだ。

 

 彼らは、今のままでは駄目だと考えている点では一致しているが、それをどう変えたいか、どのように変えたいかについては、極端に言えば一人一人違っている。だから一緒に運動を始めることは出来ても、いつかは意見が衝突して行き詰まる運命にあるといえる。保守は守るべきものがあるから最低ラインでまとまれるのだが、リベラルは守るべきものがないので皆が好き勝手に動いてバラバラになってしまう。その結果、皆が駄目だと思っている現在の体制がいつまでも続くことになる。

 

 結婚式でさえ運動についての激論を交わす場に変えてしまう彼らを見ていたら、日本にも若者たちが社会を変えようと行動していた時代があったのだなと感慨深くなる。ただ彼らが生真面目過ぎるのは気になった。この姿勢が仲間を厳しく糾弾することになったり、耐えきれなくてすっぱりと運動を止めることにつながってしまったのかもしれない。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 大島渚

 

脚本 石堂淑朗

 

出演 渡辺文雄/桑野みゆき/佐藤慶/芥川比呂志/吉沢京夫/小山明子/寺島幹夫/永井一郎

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日本の夜と霧

日本の夜と霧 - Wikipedia

 

 

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