★★★★☆
内容
著者の最初期の作品16編を収めたコレクション。
感想
どの作品も、一つの文章が長いのになぜか読みやすくもある著書独特の文体となっている。講談師が喋っているかのようなリズムの良さがあり、グルーヴ感があって慣れてくると心地よい。
人間の醜さや汚さ、みっともなさを扱った作品が多い。戦争を体験し、色んな人間を見てきた著者にとって、それこそが人間の本当の姿なのだろう。豊かになっていく日本で周辺に追いやられ、次第に消えていくそんな人間味あふれる人々に対する愛情のようなものも感じられる。
数ある作品の中で、「死」にまつわるビジネスに挑む人々を描いた「とむらい師たち」が印象的だった。言ってみれば「死」をテーマにどんなビジネスモデルがあるかを考える企画みたいなものだが、次々とプレゼン案が出てきて、これだけでかなりの文章量になっている。そのアイデアマンぶりには、さすが業界人という貫禄があって感心してしまう。
この小説が発端ではないのだろうが、今や一大ビジネスの、古くからの習慣に見えて実は最近のものである水子供養に言及しているのもすごい。母親には後ろめたさがあるはずだから、潜在的な需要は相当あるから儲かるはずと登場人物に語らせている。
水子供養の話もそうだが、その他にも不妊治療やネグレクト、業界内幕ものに悪魔のような子供など、今でもテーマに新しさを感じるような作品が多いのは意外だった。
またどれも、終盤になると結末まで一気呵成にたたみかけるような展開となってドライブ感があるのも特徴で、ある種爽快な読後感を得られる。読み応えのある一冊だ。
著者
野坂昭如
収録作品
初稿エロ事師たち
浣腸とマリア
あゝ水銀大軟骨
銀座のタイコ
マッチ売りの少女
とむらい師たち
四面凶妻
受胎旅行
ベトナム姐ちゃん
娼婦焼身
子供は神の子
殺さないで
焼土層
プアボーイ
八方やぶれ
死児を育てる
解題 / 大月隆寛 著
登場する作品
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「初稿エロ事師たち」
映画化作品