★★★★☆
あらすじ
忘れられた炭鉱の町の異様な歴史を物語る表題作など、野坂昭如の中短編を収めた作品集。
副題「骨餓身峠死人葛」の読みは「ほねがみとうげほとけかずら」。
感想
収録作品の中で強烈なインパクトを残すのは、表題作の「骨餓身峠死人葛」だ。今はもう忘れられた炭鉱集落のおぞましい過去が明らかにされていく。最初はほんのり妖しいくらいだったのが、どんどんと異常さを増していき、最終的には地獄絵図のような光景が繰り広げられる。
しかも、そこに人が住んでいて、そんな事が起きていたことを、地元の人ですら全く知らなかったというのもなんだか恐ろしい。文明化していく世間のすぐ隣で、取り残されるどころか、この世のものとは思えない独自の歩みを生んだ隔絶された世界があった。人間がどちらの世界に向かうのかなんて、紙一重でしかないように思えてくる。
その他、疎遠になったかつての同級生である女二人が再会する「同行二人」も味わい深い。派手に着飾った今の相手を見て、疎遠になったのは育ちが違ったからと納得し、警戒していた主人公が、彼女の壮絶な過去を知り、見方が変わる。
それ以外の作品も、嫌われ者の醜い老婆は、かつて名を馳せた売春婦だった、というような、今と過去のギャップが際立ち、人生の儚さを感じさせるものが多い。人の一生は、誰もに知られながらも誰もに忘れ去られてしまうくらいに長いのだなと実感する。
そして生きている間に世の中はどんどんと変わっていく。昔の庶民生活の描写などはもはや民俗学といってもいいのでは?と思ってしまうほどで、知らないどころか、もはや何をしているのやらイメージすら出来ないものも多かった。
色々なものが消えていき、忘れ去られていくことに無常感を覚えないこともない。だがみんなが忘れたことや知らないことを、自分だけは覚えている、という状況はなんだか楽しそうでもあり、歳を重ねて長生きするのも面白いかもしれないなと少し思った。
著者
野坂昭如
収録作品
色即回帰/ああ日本大疥癬/軍歌/ああ水中大回天/猥歌/色指南/同行二人/花のお遍路/人情ふいなーれ/骨餓身峠死人葛/弱気眼鏡/おっぱんぱん/垂乳根心中/酎友無双/浮世一代女/万有淫欲
登場する作品
ああ日本大疥癬
ああ水中大回天
「青い大陸」
猥歌
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