★★★☆☆
内容
まったく不合理な行動ばかりしている人間に、選択の自由は担保しつつ、より良い選択ができるよう促す手法「Nudge(ナッジ)」について紹介する。
2008年に出版された著書の改訂版。
感想
人間がいかに不合理な生き物かを説明し、間違った選択ばかりしてしまう我々がより良い選択ができるよう促す方法が紹介される。
改訂前の本書で紹介されて物議を醸したようだが、例えば臓器提供に同意するかの確認文書で、同意する場合にチェックを入れるパターンと、同意しない場合にチェックを入れるパターンがあった場合、後者の方が同意する確率は高くなり、前者とは劇的な差がつく。
このように同じ問いであっても、質問の仕方で人々の回答は変わってしまう。この人間の不思議な性質をうまく使い、自然とより良い選択をするように促す仕組みが「ナッジ」だ。この臓器提供の意思の確認方法にはどんなものがあり、それぞれどうなるのかを詳しく検証する章はなかなか興味深かった。
本書ではその他にも政府による年金プランなどの例が紹介されているが、個人的には解約をしない限り自動で契約更新され続け、しかもその手続きをわざと煩雑で分かりづらいものにしているサブスクサービスなどの悪用ばかりが思い浮かんでしまう。
著者はこれらの悪用を「スラッジ」と呼んで批判しているが、「ナッジ」にどこかモヤモヤしたものを感じてしまうのは、ナッジを提供する側が考える「より良い選択」は、本当に選ぶ側にとってより良い選択になっているのか?と疑問を感じてしまうからだろう。
車を買う時の場合、客にはデザインを重視する人もいれば、性能を重視する人もいる。デザインを重視している客にディーラーがより良い性能の車を選ぶように促してしまったら、それはナッジなのかと疑問が残る。スラッジだと感じる人もいるかもしれない。
最後の章ではナッジに寄せられる批判にこたえているのだが、これもそのあたりがごっちゃになってしまっているからのような印象を受ける。だからシンプルに「ナッジとは特定の選択をするように促すことができる手法」と定義するにとどめ、それは良いようにも悪いようにも活用できる、とした方が分かりやすいような気がした。善悪を持ち込んでしまうと混乱を呼んで紛糾しがちだ。
あらゆる組織は人を尊重するべきであり、正当性を公然と主張できず、そうする意思のない方針を採用するのは、人を尊重していないということだ。市民をいいように利用し、操作する道具として扱っているのである。
p429
きっと著者らにはこの手法を悪用して欲しくないという願いがあるのだろう。上記引用箇所の主張には頷かされるものがある。任意と言っていたのにいつの間にか強制みたいになっていて、その疑問に真摯に応える気もなく押し付けようとしてくる「マイナンバーカード」って何なのだろうと思ってしまった。
「もうやめない?」マイナ保険証、利用率6.56%の惨状に批判殺到 …あの手この手で普及目指すも “笛吹けど踊らず” (SmartFLASH) - Yahoo!ニュース
著者
リチャード・セイラー/キャス・サンスティーン
登場する作品
「経験則(Rules of Thumb: A Life Manual (English Edition))」
「裸の王様(はだかの王さま (大型絵本))」
誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論
NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX (日本経済新聞出版)
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