★★★☆☆
あらすじ
創刊のための試作版を準備している新聞の編集長から、回想録のゴーストライターを依頼された男。
感想
創刊準備はしているが、創刊することはないだろう新聞の編集室にやって来た男。そこでは毎日のように新聞社の編集方針についての議論がされている。
ただその内容は、どのように情報操作をするか。真実だけを伝えながらいかに読者に誤った印象を与えるのか、関係のない事件を意図的に並べることで読者に特定の思想に導く方法、何も言ってないのに効果的な反論方法など、数々のテクニックが披露されていく。
数々の企業を運営する社主とその関係者に迷惑をかけないことも考慮していて、情報の扱い方ひとつで世論を望み通りに動かそうとする巨大メディアに対する批判が込められているのだろう。情報を操る者の影響力の大きさが伝わってくる。
そもそも社主は、新聞の創刊準備を進めているという事実自体が、関係者に対する大きなメッセージになることを分かった上で、それを利用しようとしているわけで。それにより目的を果たせたら充分で、だからこそ実際に新聞を発行する気はない。
そんなメディアの欺瞞と共に、独裁者ムッソリーニの死にまつわるミステリーが展開される。ただ、ムッソリーニは実は生きていた!というようなトンデモというか陰謀論的な話は割とありそうなもので、ちょっと興醒めする部分があった。その後にイタリアで起きた様々な事件を結び付けているので、イタリア国民的には興奮する内容なのかもしれない。
博学の悦びとは敗者のためのものなのだ。多くの事を知っていれば知っているほど、うまくいかなかったことも多いということだ。
単行本 p16
勝者は権力を持ち、情報を好きなように操作できるから、大した知識なんて必要ないのかもしれない。ただ操られる側も、意図的にそうすることだってある。自閉癖のある彼女が唐突に発する言葉に、必死に意図を汲んで合わせようとする主人公のように。結局、人はどんな情報でも意図的に解釈して、見たいものを見る事しか出来ないものなのかもしれない。
著者
ウンベルト・エーコ
登場する作品
「El nost Milan(エル・ノスト・ミラン)(我らがミラノ)」 Carlo Bertolazzi(ベルトラッツィ)
「007 ドクター・ノオ (字幕版)」
「Mistero Buffo(滑稽なミステリー)」 ダリオ・フォー(ダリオ・フォ)
詩篇150「音の高いシンバルをもって主をたたえよ」 アレティーノ
「La lega degli onesti(誠実者同盟)」 ジョヴァンニ・モスカ