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「臣女」 2014

臣女(おみおんな) (徳間文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 体が巨大化していく妻の世話をする男。

 

感想

 巨大化する妻と献身的に世話をする男。不思議な設定で面白いのだが、少し困るのが女の巨人ぶりがうまく想像できない事。ガンダムだとかウルトラマンくらいのサイズだとテレビや映画で見ることが多いのでイメージできるのだが、最大4-5mほどのサイズの参考となりそうな人間型のものというのはあまりない様な気がする。

 

 名古屋のナナちゃん人形くらいかなと思ったが、610cmだそうなので少し大きすぎる。途中で、男と巨大な女ではなく、女と小さな男と視点を変えてみるくだりがあるが、そんな風に子供の頃に大人を見上げていた感覚で想像すればいいのかもしれない。

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 男の浮気がきっかけで巨大化した妻。精神的に参って男を問い詰め、自らを傷つけようとする姿は、島尾敏雄の「死の棘」を思い出させる。彼女が巨大化したきっかけは明らかに夫の浮気にあると言えるだろう。後ろめたさも抱えながら、男は妻の世話をする。

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 ただこの異常事態に、彼女のために誠心誠意尽くしているのかと言われたらそういうわけでもなく、男の頭の中では、浮気相手の事を考えて会いたいなと思ったり、妻が死んだら気持ちよく泣けてスッキリするかなと想像したり、自分の小説のネタにして一作品書けそうだと算段したりと、よこしまな考えをしたりもしている。でもきっとこれが普通で、看病や介護をしている人たちのリアルな心の中のような気がする。人はそう簡単に聖人君子にはなれない。

 

 男の妻はすくすくと大きくなるというよりは、体のあちこちが不規則に大きくなっていくという、いびつで醜い成長の仕方をする。そのため妻は予測できない体の痛みに自分をうまく制御できず、暴れたり汚物も垂れ流すグロテスクな姿をさらけ出している。そんな彼女を世話するきつく汚い仕事を、男はよく続けられるなと感心してしまう。苛立たしさや嫌悪感を時に感じる事もあるのだが、それでも妻を見捨てることは出来ない。これこそが愛というやつなのだろう。

 

 

 世間の目を忍んで妻を家から出さず、食料を与えてひたすら汚物の処理を続ける鬱々とした日々を過ごした後で、ついに限界を感じて二人で外に飛び出すことにした男。解放感も出てきて、畳みかけるような終盤の展開は読む手が止まらず、最後は不覚にも泣きそうになってしまった。そして、最後まで簡単には変われないリアルな男の姿が印象的。

 

著者

吉村萬壱 

 

臣女(おみおんな) (徳間文庫)

臣女(おみおんな) (徳間文庫)

  • 作者:吉村萬壱
  • 発売日: 2016/09/02
  • メディア: Kindle版
 

 

 

登場する作品

悪の華 (新潮文庫)」所収 「巨女」

ヘルダーリン詩集 (岩波文庫)

 

 

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