★★★★☆
あらすじ
戦場にミルクを運ぶ仕事をする男は、牧場の娘に気に入られていたが、その兄の嫁としてやって来た女に一目惚れしてしまう。
エミール・クストリッツァ監督・主演。セルビア映画。125分。
感想
戦場と牧場を行き来し、ミルクを運ぶ男が主人公だ。砲火の中、肩にはハヤブサ、傘を差し、ロバに乗って移動する姿は、まるでドン・キホーテのようだった。周囲の人々は、奴は頭がおかしくなったと言っているが、そうすることで何とか正気を保っているようにも見える。それに、平和ボケした人間から見れば、戦争を日常として生きている周囲の人たちだって十分に異常だ。
主人公は牧場にやって来たミステリアスな女に惚れてしまう。戦争に行っている長男の嫁となる予定なので、主人公はわきまえて遠くから見守るだけなのだが、一方の女がグイグイと来るのが印象的だ。戦争で思うようにならないことばかりの中、これだけは絶対に手に入れたいという
やがて戦争は終わり、女の夫となる予定の長男も戻ってくる。二人の恋もこれまでかと思ったところで、新たな戦いが始まってしまう。豚の血が溜められたバスタブにガチョウたちが飛び込んでいたシーンのように、血の匂いのするところには人が群がるということか。今回の戦いは厳密には戦争ではないが、何やかやと理由をつけ、形を変えて殺し合いは続く。
それまでどこか牧歌的な雰囲気が漂っていた戦争が、急にシリアスで生々しいものになったのも示唆的だ。束の間の平和のあと、凄惨の度合いが増した戦いが始まる。
二人は運よく殺戮から逃れ、結果的に生き残る。主人公が普段から自然や動物を大事にしていたことが功を奏したと言える。蛇が敵と出会うのを遅らせ、蝶々が敵の目を逸らしてくれた。
そして二人の逃避行が始まる。緊迫感がありながらもどこか幻想的でもあるそれは、彼らの願望が入り混じっているかのようだ。心落ち着く暇のない日々を生き延びるには、想像力が必要なのかもしれない。
地雷原に二人が追いつめられるのがクライマックスだ。右往左往する羊たちがあちこちで地雷で吹っ飛ぶシーンは壮観だ。大衆もこんな風に深く考えずに戦争に突入し、呆気ないくらい簡単に死んでいく。
最後、ハッピーエンドにならなかったのは悲しいが、それでもすべてを戦争に飲み込まれなかったのは救いなのかもしれない。悲しみを胸に、それでも生きていくことが大事だ。
過酷な物語をどこかユーモラスに、幻想的に描いた物語だ。異国情緒満載のノリの良い音楽も心躍る。また、ヘビやハヤブサや羊が登場するなど、どこか聖書を思わせて、色々と考察も出来そうだ。風刺的、戯画的でもある。壮大なおとぎ話を堪能したような満足感がある。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作/出演 エミール・クストリッツァ
出演 モニカ・ベルッチ/プレドラグ・"ミキ"・マノイロヴィッチ
