★★★☆☆
あらすじ
失踪して荒野を彷徨っていた男は、倒れたことで発見され、息子を引き取り育てていた弟夫婦の元に身を寄せることになる。
ヴィム・ヴェンダース監督、ナスターシャ・キンスキーら出演。147分。
感想
荒野を彷徨っていた男が主人公だ。倒れて病院に運び込まれ、連絡を受けてやって来た弟の家に連れて行かれる。その途中の主人公は最初ひと言も喋らず、食事もろくに取らず、目を離せばすぐにどこかに行ってしまおうとする覚束なさで、冷や冷やとしてしまう。だが荒野から都会へと景色が変わる頃になると、まともな振る舞いを見せるようになった。
4年前に弟夫婦の家に子供を置き去りにして、夫婦共に消息を絶った主人公は、何があったのか、何も語らない。だが、もはや叔父夫婦を両親のように思っている実の息子との関係はちゃんと築きたいようで、両者はぎこちないながらも距離を詰めていく。ただ男は働こうとするでもなく、寄る辺なく日々を過ごしているので、いつまでも留まる気はないのだろう。
弟の妻から情報を得た主人公は、自分の妻を探すために息子を連れてテキサスに戻っていく。ドライブの道中で、ピックアップトラックの荷台にいる息子とトランシーバーで会話するシーンは良かった。
たどり着いたヒューストンで、主人公は妻と再会を果たす。状況的には哀しき場所での再会だが、妻を演じるナターシャ・キンスキーの金髪のボブカット、背中の大きく開いたピンクのモヘアニット姿は鮮烈だった。抑えめのトーンで地味だった映像が一気に艶やかになった。
会話の途中で、正体を明かすことなく立ち去ってしまった主人公だったが、再び彼女に会いに戻ってくる。そしてここで4年前に何があったのかが明らかになる。しかし、なかなかの男らしくない話だった。一昔前のアメリカン・ニューシネマに出てくるナヨナヨとした主人公みたいだが、魅力的な妻の姿を見てしまったので、そうなる気持ちも分からないではない。
親子が揃い、ハッピーエンドになるのかと思った結末は、主人公がそれに背を向けるような形で終わる。息子とのトランシーバを使った会話もそうだったが、妻とも背中越しでしか喋れない主人公には、その先に進むことが困難だったのだろう。高いところから将来を見据えて生きるよりも、その時の気持ちを大切に、足元だけを見つめて歩いていこうとしている。そう考えているから皆の靴も磨く。
荒野を彷徨っている時ですら赤い帽子をかぶり、妻に会いに行くときは父も子も赤い服で、妻も赤い車で赤い服だったのに、二度目に会いに行ったときには三人とも暗い色の服に変わっていた。カラーで状況や心情が暗示されている。日が沈み、夕焼けの赤が暗闇の色に変わりそうな中、妻と子に背を向けて路上に出ていく主人公の姿が物悲しい。
スタッフ/キャスト
監督 ヴィム・ヴェンダース
脚本 L・M・キット・カーソン/サム・シェパード
出演 ハリー・ディーン・スタントン/ナスターシャ・キンスキー/ベルンハルト・ヴィッキ/ディーン・ストックウェル/オーロール・クレマン/ハンター・カーソン/ジョン・ルーリー
音楽 ライ・クーダー
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