★★★★☆
あらすじ
短編集。表題作は、敗戦後に戦犯としてサイゴン刑務所に抑留された主人公たちの日常を描く。芥川賞受賞作。タイトルの読みは「プレオ―8(ゆいっと)の夜明け」。
感想
従軍体験をした著者による戦争小説。読んでいると、実際に戦争に行った人の話は違うなと実感させられる。戦争経験のない自分たちが考える、戦争はこういうものだったはずという思い込みを打ち壊してくる。
割と頻繁に、死にたくないとか上官がムカつくとか考えていたという話や、また慰安婦の話などが自然な流れで出てくる。自分は日本の戦争映画などは良く描き過ぎだろうと思っている方だが、そんな自分でもえ、戦争ってそんな感じだったの?と驚いてしまうような記述がたくさん出てくる。
それについて、きっと著者が戦争中に実際に体験した出来事を書いているのだろうから、嘘だろうとかリアリティがないとも言えない。我々は体験もしていないのに、良くも悪くも勝手に戦争観を築き上げてしまっているのだなと思い知らされる。こちらが思い込んでいるステレオタイプ的な戦争のイメージを打ち壊すような話が、どんどんと出てくるところが逆にリアルだ。
そんな中で、彼らが人の死に対して淡々としているところがとても印象的だった。自分たちと一緒に行動している人たちが敵に囲まれてしまっても、無反応で先に進んで行ったり、重傷者ばかりの病院で、明日は元旦でゆっくりしたいから明日だけは死なないでくれ、と医者が呼び掛けたりと、静かに狂っている。
それからどの短編にも共通しているが、主人公の戦争に対する姿勢がカッコいい。下らないことは下らないと言うし、上官にはたてつくし、禁じられても現地の人と交流したりこっそりと助けようとする。まるで兵隊らしくあることを拒絶しているかのようだ。だからといって頑なではなく、流されるところは流されて、軍人としての心構えはあるが能力が低いだけ、というポジションに収まっている。だから上官も表立って叱責することは出来ない。
監獄には何もない。べたっと打ちしおれているだけではしょうがない。だから、何かできることがあったら、育てよう。少しでも楽しいことを考えだして、やっていこう。
単行本 p190
表題作は、戦後に主人公らが戦犯として収容された監獄での日々が語られる。鬱屈した日々を何とか彩りのあるものにしようと、皆で演劇をしたり歌の発表会をしたりと奮闘する主人公の姿に心を打たれる。映画「ショーシャンクの空に」みたいだ。でもなぜか同性愛的な方向に進んでしまって、思ってたのと違う、と主人公がぼやく場面では笑ってしまった。
戦争の話というと、勇ましい話や泣ける話ばかりが語られがちだが、こういうありふれた何気ない日常を描いた戦争の話というのも大事なのかもしれないと感じた。こちらの方が戦争の異常さが静かに伝わってくる。
著者
古山高麗雄
登場する作品
「暴君ネロ」 セシル・B・デミル
「商船テナシチー [DVD](商船テナシテー)」
シェイクスピア全集 (2) ロミオとジュリエット (ちくま文庫)
「花占い」 李香蘭