★★★☆☆
あらすじ
恵まれているとは言えない環境の郵便局で働き始めた男。
感想
郵便局のつらい環境で働き始めた男が主人公だ。昔の話ではあるが、アメリカもずいぶんと酷い労働環境だったのだなと少し驚いた。だが主人公は過酷な待遇にただ甘んじるのではなく、上司にたてついたり勝手に休んだりと我を通すところは通している。
上司のいびり的なものもあるがちゃんと規則に則ったものなので、日本のように理不尽ではないだけまだましかもしれない。従業員側にも規則に従って反撃するチャンスが残っている。
決して従順とはいえない主人公だが、それでもなんだかんだ言って基本的には真面目に働いているのが可笑しい。なんせ同僚たちが次々と脱落し辞めていく中で、なぜか普通に生き残っている。
満身創痍で帰宅し、大酒を飲み、恋人と過ごしてボロボロになりながらも、それでも翌日にはキッチリと仕事に出かけていく。独特の暗記法を編み出し、職場の試験で高得点をたたき出したりもする。きっと主人公は根は真面目なのだろう。やるべきことはしっかりとやってしまう。
その間主人公は何人かの女性と付き合い、一緒に暮らしているのだが、恋人に別れを切り出された時はいつも、とても物分かりが良かったのも印象的だった。泣きついたり追いすがったりせず、潔く受け入れてすんなりと家を出ていく。女性にまったく依存していないのかもしれないし、本当に愛していなかったのかもしれない。もしくはいつかはそうなるものだと割り切ってしまっているのかもしれない。
それなのに、嬉しい感じはしなかった。おれはべつに、わざわざ苦労を捜し求める人間ではないし、仕事も充分きついのだが、補欠の頃に比べると、どうも魅力に欠けるような気がする。次に一体何が起こるのかまったく不明の、「一寸先は闇」的魅力に欠けている気がしてならなかった。
p65
不安定な「補欠」待遇から常勤になった途端、勤勉に働くことに嫌気がさしてしまうところに主人公の性格がよく表れているような気がした。定年までの人生が見えた途端につまらなさを感じてしまう。安定を嫌うというよりは、遠い未来の事など考えたくもないし、知りたくもないのだろう。常に明日はどうなるのかが分からない状態でいたいというのは分からないではない。
これは著者の自伝的小説で、この後再び別の郵便局で働き、それらの体験を基にこの小説を書き上げるわけだから、本当に人生は何が起きるか分からない。「一寸先は闇」的魅力のある人生を選択し、著者のように上手くいく人間もいれば、泥沼にはまって身動きが取れなくなる人間もいる。でもそういう生き方しかできないタイプの人たちなのだから仕方が無い。
著者
チャールズ・ブコウスキー