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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「クィーン」 2006

クィーン(字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 1997年のダイアナ元皇太子妃の交通事故死の際、王室の伝統と世間の声の間で苦慮したエリザベス女王の数日間が描かれる。

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感想

 ダイアナが不慮の事故で亡くなった際、女王は沈黙を続けて世間から批判を浴びた。だが女王の立場から考えると、難しい判断だったことがよく分かる。離婚してすでに王室を離れたダイアナはもはや部外者だ。彼女の死をどう扱うかの主導権を、そもそも女王は持っていない。それに未来の国王の母親だからと率先して何かを行なおうとすれば、何をするにも税金を使うことになる王室は、世間から批判を浴びる可能性もある。余計なことをするよりも粛々と伝統に従った方が無難だろう。

 

 この件に関しては、むしろ批判する国民に問題があったと言える。メディアに踊らされ、過剰な反応を見せてしまった。ダイアナの死を悲しんだのは事実だろうが、それ以上にこの出来事を祭りやイベント的に消費しようと盛り上がってしまった。今なら「喪服を着て宮殿前に花を供える私」の写真をSNSに上げるため、バズるのに効果的な衣装やコーディネートを考えてウキウキしている感じだろうか。そして自分たちが祭りでこんなに盛り上がっているのに、なぜ王室は参加しないのかと理不尽に怒っている。

 

 

 ただここまで過熱してしまったのは、社会に不満が蓄積していたという背景があるのかもしれない。政権交代が起きたのもそうだろうし、それまでのダイアナの行動に異常な関心を示していたのもそれが影響しているのだろう。ストレスのたまった社会はそのはけ口を求めて、イベントに熱狂しやすくなる。ダイアナの死はタイミングが悪い時に起きてしまった。

 

 世間の反応に戸惑う王室だったが、メンバーが皆毒舌を交えて不満を表明しているのが面白かった。さすがイギリスとニヤリとさせられる。女王の夫フィリップの、とにかく鹿狩りがしたいという揺るぎない意志が伝わって来る言動も可笑しかった。主演のヘレン・ミレンはじめ、王室メンバーを演じる役者陣が特徴を掴んで熱演しており、皆本物とよく似ている。トニー・ブレアを演じたマイケル・シーンも良かった。

 

 周囲が世間の声など気にしなくていい、と助言する中、女王は首相の提案を受け入れ、慣例を破ることを決める。これは信念を曲げてしまったと見ることも出来るが、今後も王室を存続させるための現実的な判断だと言える。伝統と現実の間でバランスを取り、王室の権威を守っていかなければならない。それは王位につく者しか果たせない責務だ。そう考えると彼女の決断には凄みが感じられる。鹿だって気高いだけでは生きていけないのだ。

 

 映画の中盤、女王が運転する車が故障して、大自然の中をひとり、救援がやって来るのを待つシーンがある。ふいに出来たぽっかりと空いた時間に気が緩み、女王に思わず涙が込み上げる。あの涙はダイアナの死に対するものだと思っていたが、後から考えると自身の重責に対するものも含まれていたのかもしれない。

 

 ダイアナが事故で重体の報を聞いた時や首相の提案を受け入れた時など、いくつかあった重大な瞬間の様子は、敢えて見せない演出となっている。女王の気持ちになって想像してごらんと言われているようにも、お前らなんかに女王の気持ちなど分るものかと言われているようにも感じられた。この数日間だけでなく、彼女の全人生にも思いを馳せてしまうような、じっくり堪能できる濃密な人間ドラマだ。

 

スタッフ/キャスト

監督 スティーヴン・フリアーズ

 

出演 ヘレン・ミレン/マイケル・シーン/ジェームズ・クロムウェル/ヘレン・マックロリー/シルヴィア・シムズ

 

クィーン(字幕版)

クィーン(字幕版)

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クィーン (映画) - Wikipedia

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登場する人物

エリザベス2世/トニー・ブレア/エディンバラ公フィリップ/シェリー・ブレア/チャールズ皇太子(チャールズ3世)/王太后(エリザベス・ボーズ=ライアン)

 

 

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