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「レクイエム」 2009 

レクイエム(字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

  テロが横行していた時代の北アイルランドで暗殺を行なった少年と、その被害者となった家族が30年後にテレビの企画で対談することになる。

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 原題は「Five Minutes of Heaven」。

 

感想

 テロで殺人を行った加害者と、当時現場に居合わせていた被害者の弟が30年後に顔を合わせる物語だ。被害者の弟は、兄を殺された上に、現場にいたのに何もせずに見殺しにしたと母親からその後責められ続け、苦しんで来た。当時8歳の子供に対してこの母親の仕打ちは酷いなと思ってしまうが、彼女は彼女で誰かのせいにしなければ事実を受け止められなかったのだろう。これもまた事件が生んだ悲劇だ。

 

 被害者の弟が、テレビの企画で加害者と面会するまでの間、煩悶し心が揺れる様子はとてもリアルだった。一般的には寛容な態度を示すのが理想なのはよく分かった上で、でもそんなことできない、許せないと言う気持ちが抑えられない。とても素直な被害者の感情が表現されている。

 

 

 この件に限らず、世間は事件の被害者に対して報復を求めない寛容な態度を求めがちだ。だが当事者からすれば、事件で被った苦痛に耐えるだけでなく、聖人のように振る舞うことまで求められるなんて二重の苦しみだろう。ニュースでたまに聖人のように振る舞う被害者家族を目にすることがあるが、尊敬しかない。だが、彼らのような被害者は特別で、普通は怒り狂ったり、復讐心に燃えたりするのが自然だろう。

 

 だから被害者の弟が、結局テレビ番組での加害者との面会を拒否したのも肯ける。テレビ局側は二人の嘘のないリアルな姿を撮影したいとは言っているが、なんだかんだで期待しているのは二人が和解する姿だろう。慣れないカメラの前で不本意ながら彼らの期待に沿うような行動を取ってしまう可能性もあるし、そうしなかった場合は心のせまい奴だと視聴者にみなされる可能性がある。彼にとってメリットはほぼ無い。ましてや報復などしたら、逆に世間から非難を浴びるだろう。

 

 一方の加害者は加害者で苦しんでいる。何年経っても殺してしまった被害者のことが忘れられない。個人的な恨みが原因でないだけになおさらだろう。彼は彼でこの出来事に片を付けたいと思っており、テレビの企画が駄目になった後、個人的に被害者の弟とコンタクトを取り、直接会おうと試みる。

 

 両者がかつての事件現場で再会するのがクライマックスだ。被害者の弟が感情むき出しで襲い掛かり、加害者はそれを受け止める。ただ加害者が、相手の気のすむまで暴れさせるつもりかと思ったのに、途中で反撃に出たのは意外だった。だが相手が加害者になってしまったら、この先自分と同じ気持ちを味わうことになるから配慮したのかもしれない。

 

 これが思っていたよりも激しいアクションに発展して呆気に取られてしまったが、それがきっかけとなって両者の問題にケリがつく。結局、被害者は事件にいつまでも囚われるの止めて、未来を見て生きていくのが最善だ。最初から分かり切っていたことだが、そういうものだと最初から言い聞かせるよりも、やりたいようにやった後での方が自分を納得させることができるような気がする。

 

 そして被害者も許されて安心するわけだが、加害者と被害者が取り戻した心の平穏は種類が違う。晴れ晴れとした気分になるのはきっと加害者だろう。なんだか不公平だなと思ってしまう。そもそも加害者が抱える苦しみは、事件を起こさなければ存在しなかったものなので自業自得だ。不幸な災難でしかない被害者とは全く違う。

 

 こうした両者の非対称性が人間関係をこじれさせるし、国や組織同士の絶え間ない諍いを生んでしまうのだろう。これを解決することは簡単ではないが、国や組織の場合だったら、まずは加害者が言っていたように報復の連鎖の中に若者を引き込まないことが大事なのかもしれない。

 

スタッフ/キャスト

監督 オリヴァー・ヒルシュビーゲル

 

製作 スティーヴン・ライト/オーエン・オキャラハン

 

出演 リーアム・ニーソン/ジェームズ・ネスビット/アナマリア・マリンカ

 

レクイエム(字幕版)

レクイエム(字幕版)

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レクイエム (2009年の映画) - Wikipedia

 

 

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