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「陸軍中野学校」 1966

陸軍中野学校

★★★★☆

 

あらすじ

 陸軍少尉となった男は、極秘のスパイ養成機関「陸軍中野学校」のメンバーに選抜される。

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 シリーズ第1作。96分。

 

感想

 軍人になったばかりの男が、極秘機関で学び、一人前のスパイになるまでが描かれる。

 

 まず主人公らがスパイ候補になるまでの過程が強引で驚く。何も知らせずに謎のテストをした上で極秘任務として呼び出し、今日からスパイになってもらうから家族やキャリアは捨ててくれといきなり申し付ける。断りづらい空気だし、断ったら断ったで結局キャリアは駄目になりそうだし、どんな仕打ちを受けるかも分からない。有無を言わせぬやり口にドン引きしてしまった。

 

 

 ただ、引き受けるかどうかをじっくり考える時間を与えてしまったら、色んな人に相談したりして極秘の意味がなくなってしまいそうなので仕方がないのかもしれない。他国だと身辺調査した上で極秘にリクルートしたりするようだが、まだそういうシステムが出来上がっていない試行錯誤の段階なので、こういうやり方になったのだろう。

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 だがせめて身寄りの少ない人間を選ぶなどの配慮をするべきだった。将来有望な若者がいきなり消息不明になったら、家族や友人など周囲の人間が騒ぎ立てるに決まっている。これが後に主人公に悲劇を生むことになってしまった。

 

 主人公らが養成機関で学ぶ様子はとても真面目だ。若者が集っているのだから青春映画らしい恋愛や友情が描かれても良さそうなものだが、ただひたすらに勉学に打ち込むだけだ。とはいえ、女性の扱い方や喜ばせ方まで真剣に学んでいるのは面白かった。しかも実習まである。ちょっとジェームズ・ボンドぽい。

 

 国の期待に完全に順応し、それだけにひたすら打ち込むのもまた、これはこれで一つの青春の形なのかもしれない。しかし、仲間の自殺やドロップアウトなどのありがちなトピックに対する彼らの対処の仕方には異常なものを感じてしまった。いかにも日本人的な対処の仕方でげんなりしてしまったのだが、よく考えると上司の命令は無視している。

 

 感傷的な上司とは違い、彼らは既にスパイ的な思考を身につけてしまっているのかもしれない。自分がどうしたいかではなく、こう対処すれば望ましい状況が導けると計算した上での行動だった。スパイとしては立派なのかもしれないが、人間としては歪で距離を感じてしまう。

 

 その歪さが端的に表れるのは、クライマックスで主人公が見せた婚約者に対する非情な措置だ。もはや個人的感情は無視して、国家の事情を最優先に考えている。それでも彼女の気持ちを気遣う様子が見えたのは、まだそれなりに人の心が残っていたからだろう。なんともいえない感情に襲われてしまうシーンだった。

 

 主人公の上司も敵国のイギリス人スパイも陸軍の悪口を同様に言っていたり、出来たばかりの陸軍中野学校を小馬鹿にし、エリート意識丸出しで疑っていた参謀本部の大尉が情報漏洩の張本人だったりと、笑うに笑えない場面があって、でもやっぱり面白い。日本陸軍の馬鹿さ加減を理解している人がちゃんといたのに彼らを止められなかったのは辛い。やっぱり負けるべくして負けた戦争だった。

 

 労基法無視、ガバナンスガバガバで今さら時代遅れの「プロジェクトX」を見ているかのような、まったく共感できない、むしろ嫌悪感すら抱いてしまう集団の物語だが、その異様さに思わず引き込まれてしまう映画だ。当時の観客が同じような感情で見ていたのか、戦争は負けたけどこの精神は大事だよなと思いながら見ていたのか、どっちなのか気になる。

 

 主演の市川雷蔵が、何を考えているのかよく分からない得体のしれなさを醸し出す主人公を好演している。

 

スタッフ/キャスト

監督 増村保造

 

脚本 星川清司

 

出演 市川雷蔵/小川真由美/加東大介/ピーター・ウィリアムス/E・H・エリック/待田京介

 

陸軍中野学校

陸軍中野学校 (映画) - Wikipedia

【本編】『陸軍中野学校』<2週間限定公開> - YouTube

 

 

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