BookCites

個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「藤子・F・不二雄大全集 中年スーパーマン左江内氏/未来の想い出」 2012

中年スーパーマン左江内氏/未来の想い出 藤子・F・不二雄大全集 (てんとう虫コミックススペシャル)

★★★★☆

 

内容

 スーパーマンの能力を手に入れた冴えない中年男の活躍を描く「中年スーパーマン佐江内氏」と、ループする人生に気付き、最良の人生を手に入れ、そこから抜け出そうとする漫画家を描く「未来の想い出」の2つの作品を収録。

 

感想

「中年スーパーマン左江内氏」

 スーパーマンの能力を与えられた平凡な中年男が主人公だ。45歳の設定のようだが、妻と子供を養い、庭付き一戸建てに住む男を「平凡」とか言われてしまったら、令和の45歳の男はどうすればいいの?と思ってしまうが、それはまた別の話。

 

 序盤は、言うことを聞かない娘に手を焼いたり、社内人事にヤキモキしたり、若い女との恋を夢想したりと、中年のサラリーマンにありそうなエピソードを題材にした物語となっている。空を飛んで出勤するなど、時おり能力をせこく私的流用するのも、小市民的でらしさがある。

 

 そんな中では、物分かりのいい父親を気取り、勉強しない娘に「いい嫁になるには勉強は不要だ。遊んでいいぞ」と言ったら、女性蔑視だと猛反発され、逆にやる気にさせてしまったエピソードは面白かった。人を動かすのは難しい。

bookcites.hatenadiary.com

 

 中盤くらいから、正義が何か分からなくなって悩んだり、正義に酔いしれる自分に気付いて怖くなったりする主人公の様子が描かれるようになり、物語に深みが出てきた。最後は正義を叫ぶ政治家に協力したら裏切られ、落ち込んでしまう。世の中に欺瞞や偽善が蔓延っていることを思い知らされる。

 

 

 だがそこで主人公が開き直って冷笑したり、露悪的になってしまうのではなく、あくまでも愚鈍に正義を信じる男のままでいるのが良い。そんな人を小馬鹿にするのが利口な振る舞いだと思っている最近の風潮の中では、あきらめずに立ち上がる主人公の姿がなおさら頼もしく感じられ、勇気づけられる。

 

「未来の想い出」

 ピークを過ぎた漫画家が突然死して、再び人生をやり直すところから物語はスタートする。単純に若かりし頃を回想する青春物語のようにも読めて、巧い構成だ。

 

 仲間に出会い、互いに切磋琢磨することで漫画家の夢を掴んだ主人公だったが、いくつかの悔いがあったことが分かる。しかし世間から見れば成功した人なのに、当人は満足できていないのだから人生は難しい。

 

 事あるごとに何度も未来の想い出が蘇っていた主人公は、自分の人生がループしていることに気付く。そして次の人生を成功させようと、そこから予習に励む。今回は一旦捨てて、次の人生に備えようとする発想も面白いし、予定通りに死ぬことが出来て大喜びするのも可笑しかった。

 

 そして前の人生の記憶をもったまま、主人公の新たな人生が始まる。歴史を修正しようとする謎の力と戦いながら、悔いのない人生を歩もうとするが、未来を知っている後ろめたさのようなものが出てくるのが味わい深い。

 

 ラストはハッピーエンドとなるが、また人生をやり直すのかと思わせておいて、そして事故直後を描いているのかと思わせておいて、その何十年か後に一気に飛んでしまうダイナミックな展開が良かった。その間にあったことも色々と想像できる。

 

 家は三回建てないと理想の家にならないと言うが、人生は何回やったら満足できるのだろう。ましてループしないなら、地道に日々を悔いなく生きていくしかないのだろうなと当たり前の結論にたどり着く。

 

著者

藤子・F・不二雄

 

中年スーパーマン左江内氏 - Wikipedia

未来の想い出 - Wikipedia

 

 

関連する作品

「未来の想い出」

映画化作品

bookcites.hatenadiary.com

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com