★★★★☆
あらすじ
小さな村で次々と起こる殺人事件の犯人を追う刑事たち。実在の事件を題材にしている。
感想
次々と起こる連続殺人事件。しかし警察の捜査は、現場保全が上手くできないわ、容疑者には暴行を加えて自白を迫るわ、証拠は捏造するわで、いかにも田舎のガサツな仕事ぶりで、おいおい、酷いな、と思ってしまうのだが、コミカルでもある。特に主演のソン・ガンホとその相棒の刑事がそれぞれ全く別のシーンで繰り出した飛び蹴りが、あまりに見事で思わず笑ってしまった。韓国の学校では水泳は教えないが飛び蹴りは教えているのか?と疑うレベル。
そんな本当は笑えない彼らの粗野な捜査に変化をもたらしたのが、新しく加わったソウルから来た刑事。主人公らの昔ながらの捜査と、この刑事のデータを用いた新しい捜査、二つの手法が同時に描かれていく構成が上手い。旧来のやり方は馬鹿にされがちだが、それはそれで有効なときもある。しかし捜査をめぐって対立する両者だが、特に主導権を巡って争うわけでもなく、基本的には互いに関与しないようにしているだけというのは大人の対応だった。日本だと自分たちのやり方に従わない新参者を潰そうと、躍起になりそうだが。
捜査は次第に犯人に迫っているかのように思えたが、その間にも次々と殺人事件は起きている。段々と笑えない雰囲気になってきて、主人公らにも焦燥感が現れ始める。主人公の荒っぽいやり方を批判的に見ていたソウルから来た刑事が、こらえきれずに容疑者に暴力を振るい、主人公に止められていたのは象徴的だった。捜査は理性的に行おうと強く意識していないと、感情的になってすぐにタガが外れてしまう。
結局真相は闇の中、というラストにあれ?と思ったが、後でこの映画は実在の事件を題材にしたものだという事を知って納得した。この事件は映画公開時にはまだ未解決(現在は犯人が判明して解決)だったので、最後の主人公の視線は、見つかっていない真犯人へ向けたものだったようだ。
凶悪な犯罪者が普通の顔して身近にいるかもしれないし、障碍者の容疑者をいびっていた刑事がある日不具になってしまったように、ある日突然、自分が被害者や加害者、容疑者になってしまう可能性だってある。理性的な刑事だってふとしたはずみで暴力刑事になった。思っているよりも我々は、脆弱で不確かな世界に住んでいるのだということに気づかせてくれる。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 ポン・ジュノ
出演 ソン・ガンホ/キム・サンギョン/パク・ヘイル/チョン・ミソン
音楽 岩代太郎