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「さようなら」 2015

さようなら

★★★☆☆

 

あらすじ

 原発事故で放射能に汚染され、人が住めなくなった近未来の日本。国外への避難政策がすすむが、外国人の女はなかなかその対象に選ばれず、日本に取り残されていた。

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 深田晃司監督、平田オリザの同名戯曲が原作。112分。

 

感想

 原発事故で人が住めなくなった近未来の日本が舞台だ。少子化や戦争など日本の将来を危ぶむ声は多いが、案外この原発事故がいちばん現実化しそうな危機かもしれない。福島の原発事故をはじめ、過去の数々のやらかしと反省のなさを見れば、そんな気になってくる。

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 そして国の方針で国外への避難政策がすすめられる。当然一度に全員は無理なので優先順位が付けられ、選ばれた人から順番に出国していく。外国人の主人公をはじめ登場人物たちは、なかなかそれに選ばれない取り残された人々だ。

 

 

 彼らはそれぞれ選ばれない理由に思いを巡らしているが、病気や年齢、家族の有無、国籍、犯罪歴など様々だ。世間から何かと目の敵にされがちで、油断してると簡単に排除されてしまいそうになる社会的弱者たちだ。彼らが「どうせ選ばれないだろう」とあきらめた表情をしているのが印象的だった。

 

 また避難した日本人たちが、受け入れ先の国で「難民」として差別や攻撃にさらされていることも容易に想像できる。現在の日本社会に横たわる様々な問題を浮き彫りにする巧みな設定だ。リアリティが感じられて、切実な気持ちで色々と考えてしまう。そして描かれないが、もちろん政府や与党の人間たちは真っ先に国外脱出しているはずだ。

 

 選ばれない人間やあきらめた人間たちの日々が描かれる。主人公が付き合っていた恋人に見捨てられたと知った場面は切なかった。だがなぜ捨てられたのか、彼女の告白のどこにスッと冷めたのかはよく分からなかった。今さら引くようなことは何もなかったような気がしたが、難民だったのが気になったのか、差別の話にうんざりしたのか。ただ彼自身も在日朝鮮人で、マイノリティだろうが誰にでも偏見があることを示唆している。

 

 そんな社会問題を描きつつ、最終的には主人公と彼女の保有するアンドロイドの物語となっていく。主人公が朽ち果てた後も、変わらずそこにいるアンドロイドには忠犬ハチ公のような哀れがあった。そして長い時が流れ、ついにアンドロイドは自ら動き出す。だがその姿はどこか滑稽でコント風味があって可笑しかった。人間の反応を見て感情を学習するアンドロイドは、その人間無しで奇跡的な光景を見た時、どんな反応を示すのだろう。

 

 たっぷりと間を使った物静かな物語だ。時々しんどくもあったが、深みがある。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/製作/編集 深田晃司

 

原作 「さようなら」 平田オリザ

 

製作 小西啓介/小野川浩幸

 

出演 ブライアリー・ロング/Geminoid F/新井浩文/村上虹郎

 

撮影 芦澤明子

 

さようなら

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さようなら (2015年の映画) - Wikipedia

 

 

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