★★★☆☆
あらすじ
真面目に人生を送ってきた銀行員の男は、ある日若い男娼と知り合う。
ロビン・ウィリアムス主演。原題は「Boulevard」。88分。
感想
休暇も取らずに働き、施設に入った年老いた父親の面倒も見て、真面目に生きてきた銀行員の男が主人公だ。妻との仲も円満のようだが、なぜか家庭内別居のような暮らしをしている。そして目も死んでいる。
そんな彼がある日、若い男娼と知り合う。真面目にルーテインをこなしていた男が車をUターンさせ、街娼たちがたむろする場所に向かう。そして慣れないことに動揺して男を轢きそうになり、パトカーに追い立てられるようにその男を乗せてモーテルに向かう。物語のターニングポイントが、自然な流れで描かれている。
ただあまりにも自然で、とにかく誰かと話したかった主人公が選んだ相手がたまたま若い男だった、ということなのかと思ってしまった。街娼たちは女ばかりと思い込んでいたのと、彼の性的志向が分からなかったことも影響している。
だがその日から彼はソワソワするようになり、遅刻をしたり、彼からの電話を待ち焦がれたりと、今までにはなかった姿を見せるようになる。そればかりか、彼にまともな仕事を紹介したり、大学に通う援助を申し出たりする。
言われるままに生きてきた主人公が、初めて自分の意思でやりたいことをやるようになった。医者に禁止されていた炭酸飲料も、こっそりと父親に飲ませてやる。男娼の元締めと揉めて殴られ、初めてあざが出来たと喜ぶ姿は印象的だ。
だが、いつもとは違う彼に不審を募らせた妻との関係は悪化していく。当然と言えば当然なのだが、すでに家庭内別居はしているわけで、両者の間にどんな了解があったのか分からず、どう解釈するべきなのかはよく分からなかった。
主人公の性的志向を知った上でこの暮らしを続けているのなら、恋愛関係はお互い好き勝手にやればいいような気もする。そうでなければこの関係は長続きしないはずだ。「(彼女ではなく)彼は誰なの?」と問い詰めていたので知っていたのだと思うが、だとしたら妻はどんな生活を望んでいたのだろうか。
そんな曖昧さを反映するような、控えめなエンディングとなっている。アイデンティティをめぐる良いお話になっているが、若い女にハマって家庭を駄目にした中年男の話と大差ないように思えなくもない。
自分に正直に生きると決意するのに遅すぎることはないが、自分を騙してきた時間が長ければ長いほど、自分の人生に付き合わせてきた人たちを深く傷つけてしまうことは覚悟しなければならない。
スタッフ/キャスト
監督 ディート・モンティエル
脚本 ダグラス・ソースビー
出演 ロビン・ウィリアムズ/キャシー・ベイカー/ロベルト・アギーレ/ボブ・オデンカーク/エレノア・ヘンドリックス/ジャイルズ・マッシー