★★★☆☆
あらすじ
詩人として生きた男の人生。
感想
いろんなテーマが含まれている様な長編小説。その中でも青春、若さゆえの醜さが強く感じられる内容となっている。初めて得た恋人への嫉妬や独善的な要求、自己愛の強さと他者の視線との間で揺れるアイデンティティ、母親からの独立を求めながらも庇護を求めているなど、この時代に特徴的な姿が描かれ、様々な欺瞞や矛盾を浮かび上がらせている。
思えば青春時代は自己を確立する時代で、過剰に自意識が高かったり他者の視線が気になったりする中で試行錯誤し、世間との距離感を測っている。それが時にやり過ぎで、後から思い出すと恥ずかしさのあまり居ても立ってもいられなくなったりするわけだが、第三者の視線から見るこの主人公の振る舞いは酷すぎて見ていられないレベル。微笑ましいなんてものではなかった。
自分をすごく見せるために誰かの真似をしたり、愛こそすべて、みたいになるのは良くある話だが、他人の人生、そしてその家族の人生をめちゃくちゃにしてしまうのはやり過ぎ感が半端ない。しかも、それでも自分は間違っていない、正しい事をした、と思っているのが恐ろしい。
それからその裏で社会で進行している共産主義の怖さが垣間見られるのも印象的。ほとんど関心がなかった主人公やその母親が、主流派が言っているようなことを口にしてみたら気持ちよさを感じることを発見したり、理想に燃え熱狂していた人々がいつの間にか周囲を気にして言葉を選んで話すようになったりと、違和感が描き出されている。
こうやって人々は自分の言葉で語れなくなっていってしまうのかもしれない。怖いのは共産主義というよりも全体主義といった方がいいだろう。他人に多くを強いるような社会は窮屈で生きづらい。他人に強要する立場だった人もやがては自身の自由が失われていることに気付く。
著者
ミラン・クンデラ
登場する作品