★★★★☆
あらすじ
クーデターにより宗教国家となったアメリカを、三人の女性の目を通して描く。1985年の小説「侍女の物語」の続編。
感想
前作から35年後に出た続編。前作は一人の女性の視点だけで描かれていたので宗教国家の限られた一面しかわからなかったが、今回は三人の女性を通して描かれて一気に視野が広がった。しかも語るのは、草創期を知る女性トップの老婆や国の教育を受ける少女、そして国外カナダの少女なので、国家の全体像が多面的に浮かび上がってくる。
三人の女性の中では、やはり女性トップの地位にいる老婆の話が印象的だった。クーデターが起きた時、抵抗して潔く死ぬことも出来たがそれを選ばず、転向して生き抜くことに決めた女。内部の激しい権力闘争を勝ち抜きながら、密かに自身の目標を果たそうとしている。はたから見れば彼女は権力に憑りつかれた悪の権化なのかもしれないが、その実情を知ってしまうと果たして彼女を糾弾してもいいものだろうかと分からなくなってくる。全ては生き残るためだった。
そして男尊女卑社会で女性トップに君臨する彼女の姿を見ていると、今も現実世界で男尊女卑社会を賛美している女性は、もしそれが実現したら自分はどのポジションにいるつもりなのだろうかと疑問に思ってしまった。もしかしたらいわば「名誉男性」として男性と同じように扱われるつもりなのかもしれないが、まずそれはないだろう。名誉男性を認めてしまったら、それを目指す女性がたくさん出てきてしまって意味がなくなってしまう。
この小説でもそんな女性はおらず、ただ男性社会から隔離された女性を中心とした社会のトップがいるだけだ。トップの女性は男たちの顔色を窺いながら限られた権限を限られた場所で活用する程度。実際にそんな社会になったら、賛美していた女性たちはこんなはずじゃなかったと後悔するような気がする。想像力というのは大事だ。
それから、学校の教育にあまり馴染めていなかった少女が、それでも国家に十分洗脳されており、それに囚われてしまっているのが分かって来るのは意外だった。彼女は、国家の建前の裏にあった真実を知って戸惑っている。それだけ一度身に着けた知識や常識は、いつまでも根強く残り続けるという事だろう。
読み書きができても、あらゆる疑問に答えが出るわけでなかった。疑問はつぎの疑問に、つぎの疑問はそのまたつぎの疑問につながるのだった。
p421
そして知れば知るほど疑問が増えていくというのも真理で、それこそが「学ぶ」という事だ。一つ知識を手に入れただけで、とてつもなく賢くなった気がするのはよく分かるが、最初は裸一貫に竹槍を手に入れた程度でしかないという事を、SNSで専門家にマウントを取ろうと突撃している人たちには知って欲しいところ。学びとは、地道に疑問に一つ一つ答えを出しながら積み上げていくもので、それひとつ覚えただけで一発逆転できる知識などというものはない。そして学べば学ぶほど、人は自分の知らないものの多さを知り、謙虚になっていくものだ。つまり自分が賢いと思えてしまうようでは、まだまだだという事だろう。
最初は別々に語られる三人の物語が、やがて互いに交わるようになり、遂には一つの大きな物語へとなっていく過程は興奮させられた。最後は少しあっさりし過ぎかなと思ったが、そこに至る過程が大事だったという事だろう。ディストピア社会で描かれる様々な出来事に、色々な事を考えさせられる。
著者
マーガレット・アトウッド
登場する作品
「Lives of Mothers and Daughters: Growing up with Alice Munro(娘たちと女たちの生活)」
「Apologia pro Vita Sua (English Edition)(わが生涯の弁明)」
「Mitsou, Ou Comment l'Esprit Vient Aux Filles (Classic Reprint)(踊り子ミツ)」
関連する作品
前作