★★★★☆
あらすじ
航空宇宙研究センターで清掃員として働く発話障害の女性は、研究対象として運び込まれた半魚人と密かに交流するようになる。
アカデミー賞作品賞、監督賞、作曲賞、美術賞。ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞。123分。
感想
発話障害の女性が半魚人と恋に落ちる物語だ。彼女が水中で眠るオープニングのシーンは、そんな物語に相応しいファンタジー感溢れる映像で、その世界観に一気に引き込まれた。前後のシーンを同じ音や動作でつないでいく編集も映画に統一感を与えている。
序盤は主人公が隣人と良好な関係にあり、仕事も同僚に恵まれて、つましいながらも平穏な日々を送る様子が描かれる。だが限られた人間関係のルーティンな生活に、どこかで満たされぬ思いを抱えていることも窺える。
そんな彼女の前に現れるのが半魚人だ。この半魚人が軍人の男に大けがを負わせ、その現場の清掃をしたことがきっかけで二人は出会うのだが、この時のちぎれた指をめぐるシーンは残酷ながらもどこかコミカルで笑ってしまった。
この半魚人の造形が普通に気味悪いのがリアルでいい。残虐で不気味な半魚人によく近づこうとしたなと思ってしまうが、彼女なりに何か感ずるものがあったのだろう。外見や特徴だけで判断され、酷い扱いを受けていることにシンパシーを感じたのかもしれない。
研究対象である半魚人を解剖する計画があることを知り、主人公は彼を助けようとする。おとぎ話によくある定番の展開だ。トラブルがありながらも何とか成功するが、行方を追う軍人らがこれをプロの犯行だと勘違いしていたのは可笑しかった。
自宅に匿った半魚人と主人公はさらに交流を深める。ここでよくある人間と異形の心温まる友情で終わらすのではなく、恋愛として踏み込んだ描写をするところにグッと来た。大人向けのファンタジーだ。ラストも定番の、異形は元いた場所へと無事戻っていきました、としないのも良い。半魚人の不思議な能力で消えるだけかと思っていた主人公の首の傷跡に起きた変化も、ひねりが効いていて小粋だった。
単純に恋愛ファンタジーと見てもいいが、マイノリティーの物語としても見ることができる映画だ。主人公と半魚人はマイノリティーだが、彼らを助けた隣人や同僚もマイノリティーだった。今は互いに叩き合っているのをよく見るが、マイノリティー同士が連帯し、助け合うことの重要性を実感する。アニメ好きがアニメだけを守ろうとしても限界がある、みたいなことだ。
そういう視線で見ると、俗世間なんか放っておいて二人だけの世界で生きていこうとするロマンチックな結末も、そういう風にしか生きられない切なさや寂しさが漂っていることに気づく。どこか物悲しさも感じてしまう結末だ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/原案/製作 ギレルモ・デル・トロ
製作 J・マイルズ・デイル
出演 サリー・ホーキンス/マイケル・シャノン/リチャード・ジェンキンス/ダグ・ジョーンズ/マイケル・スタールバーグ/オクタヴィア・スペンサー/デヴィッド・ヒューレット/ニック・サーシー/ローレン・リー・スミス
音楽 アレクサンドル・デスプラ
撮影 ダン・ローストセン
編集 シドニー・ウォリンスキー
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