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「新聞記者」 2019

新聞記者

★★★☆☆

 

あらすじ

 政府に圧力をかけられながらも取材を続ける新聞記者と、先輩の自殺をきっかけに政府の闇を告発しようとする官僚。

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感想

 政府に圧力をかけられながらも、真相を追及する女性記者が主人公だ。だが彼女が何と戦っているのかが分かりづらく、曖昧だった。映画の中での一応の敵は内閣情報調査室だが、彼らがなぜ恐れられているのか、なぜそんなことをしているのかは詳しく説明されない。

 

 フィクションなんだから、彼らの背後で総理らが横暴な指示を出す様子や権力を私物化する様子など、もっと遠慮せずに巨悪を分かりやすく描いて欲しかった。腰が引けている感じがするが、今を生きる日本人ならわざわざ説明しなくても分かるよね、ということなのかもしれない。

 

 悪として描かれる内閣情報室では、薄暗い中でエリート顔の職員たちが皆無言でパソコンを見つめながらキーボードを叩いている。この特撮ものの悪の組織みたいな幼稚な描写にはげんなりしてしまった。

 

 それに権力に魂を売ったエリート集団というイメージは、おそらく実際とは違うような気がする。親の七光りだけでやっている世襲議員はインテリにコンプレックスがあって嫌いだから、おそらく彼らの取り巻きは能力は低いが忠誠心だけはあるような連中ばかりだろう。ガサツで雑なおじさんの寄り合いのイメージだ。使えないマスクを莫大な金を使って全国民に配ることを決めてしまうような人たちなのだから。

 

 

 そんな人間の集まりで政権を維持できるわけないだろうと思うかもしれないが、それで維持できてしまっているからきっと本人たちも驚いているはずだ。現実にあったニュースを連想させるような事件に対して、政府が世論操作を仕掛けるシーンが何度か出てくるが、そのどれもに政府の思惑通りに世間が踊ってしまっている。チョロすぎだと笑ってしまった。現実でもたくさんの人が踊っていたことを思い出すが、こんなに小馬鹿にされてたなんて、自分だったら恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまう。

 

 主人公の女性記者を演じるシム・ウンギョンは、時々セリフにカタコト感が出たりするのだが、それが異物感を生んで不思議な魅力を醸し出していた。今の日本では、日本社会で育ったのではない彼女のような異質な存在でないと、まともなジャーナリズムは行えないと暗示しているかのようだ。そういう意味でも、多様性は今後重要になってきそうだ。

 

 一度は正義のために立ち上がろうとした官僚が、権力に飲み込まれてしまうかどうかのところで映画は終わる。ありきたりだし、そんなので躊躇するくらいならそもそも告発などしようとしないだろうと思ってしまい、サスペンスとしてはイマイチだった。

 

 だが、こういう映画はもっと作られていい。正義を語る物語があるからこそ、正義は維持される。主人公をやりたがる女優が国内におらず、韓国から連れてくるしかなかったり、松坂桃李が出演しただけで賞賛されている時点でだいぶ終わっているなとは思うが、それでもまだ完全に終わったわけではない。

 

 しかし世間の人々が、政府がメディアに圧力をかけるのも、公文書を改ざんするのも、カルト宗教団体と癒着するのも、お友達を優遇するのも別に構わない、批判をするな、批判するなら野党だけにしろ、となっている世の中では、新聞記者もメディアも頑張る気がしないだろうなと同情する部分はある。

 

 現に東京五輪だって、ほとんどの人が思っていた通り汚職まみれだったが、報じられたところで別に政権に危機は訪れていない。政権批判したって逆に世の中に叩かれてしまうだけだ。そりゃ選挙前に首相に声かけられたら尻尾ぶんぶん振って喜んで会食に行っちゃうし、その翌日から分かりやすく政権を持ち上げ野党を叩く記事を張り切って量産しちゃうよなと思ってしまった。結局問われているのは世間の人々だ。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 藤井道人

 

原案 新聞記者 (角川新書)/河村光庸

 

出演 松坂桃李/シム・ウンギョン/本田翼/岡山天音/郭智博/長田成哉/宮野陽名/高橋努/西田尚美/高橋和也/北村有起哉/田中哲司

 

音楽 岩代太郎

 

新聞記者

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新聞記者 (映画) - Wikipedia

 

 

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