★★★★☆
あらすじ
恋人とメタル音楽のデュオを組み、キャンピングカーでツアーに出ていた男は、突然耳が聞こえなくなってしまう。
アカデミー賞作品賞など6部門ノミネート。音響賞、編集賞受賞。120分。
感想
突然、聴力をほぼ失ってしまったドラマーの男が主人公だ。ライブでの激しいドラムプレイから、翌朝のコーヒーがポコポコと沸き、ミキサーがうなりを上げながら朝食を作る様子へと、耳に意識がいくようなシーンが続く冒頭の演出は上手い。
それらの音が急に聞こえなくなってしまうのだから怖い。音楽で生計を立てている主人公にとって、それは生活できなくなることも意味するのだからなおさらだ。ひどく落ち込み、自暴自棄になるのも当然だろう。
主人公は紹介された聴覚障碍者のコミュニティで暮らし始める。そこは中毒者のための施設ということなのだが、薬物を止めて5年も経つ主人公が、当然のように中毒扱いされているのは不思議な気がした。ただ薬物を完全に断つのは簡単ではなく、さらに障碍を抱えたことで気落ちしてクスリに手を出してしまう危険性も高まるからだろう。アメリカの依存症対策のレベルの高さを感じた。
それから、コミュニティで暮らすには外部との接触を絶たなければならないというルールも厳しい。主人公はずっと一緒に行動していた恋人と離れ離れになり、連絡も取れなくなってしまった。周囲の人に依存して甘えて生きるのではなく、自立して生きられる力を身につけるための処置だろうと理解はできるが、それがいつまで続くのか分からないのはモヤっとした。
家族ならともかく、恋人や友人とは会うことも連絡も取れなくなれば簡単に疎遠になってしまう。彼らもただじっと待っているわけにはいかず、新たな出会いや別れを繰り返しながら日々の生活をこなしていくのだから当然だ。
どうしたらコンタクトを取っても良くなるのか、コミュニティを退所することができるのか、そのロードマップを示して欲しかった。別に施設紹介のための映画ではないのでそれをする義理がないのは分かっているが、これでは囚人と変わらないなと思わなくもない。
施設で最初は戸惑い、ふてくされるだけだった主人公だが、やがて手話を覚え、皆との暮らしにも馴染んでいく。同じ障碍を抱える子供たちと無邪気に遊ぶ様子などは心温まるものがあった。やがてはコミュニティでこのまま働かないかと誘われるまでになる。
そこで主人公が取った行動は、施設の人の思いを裏切るものだった。だが彼の考えも一理ある。むしろちゃんと世の中を分かっていて、状況に甘んじずそれでもちゃんと生きようとしてるのだから立派だ。皆に事前に相談するべきだったとは思うが、彼の決意は責められない。
そして彼なりにやるべきことをやり、恋人に会いに行く。この行動力もすごかった。だがコミュニティを離れて以来、ずっと感じていた違和感が消えることはなかった。別れを悟り、お互いがお互いに感謝しながら抱き合うシーンは泣けた。
コミュニティのリーダーが言っていたように、新たな環境を受け入れ、その中で生きていくしかないのだろう。だが世間から離れて暮らすわけにはいかないのだから、どうすればいいのだ?と考えてしまう。迷いのなくなった主人公の姿に胸を打たれつつも、寂しさも感じてしまう結末だった。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 ダリウス・マーダー
原案/製作総指揮 デレク・シアンフランス
出演 リズ・アーメッド/オリヴィア・クック/ポール・レイシー/ローレン・リドロフ/マチュー・アマルリック
撮影 ダニエル・ブーケ
編集 ミッケル・E・G・ニルソン
サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ- - Wikipedia

