★★★★☆
あらすじ
第一次大戦中のフランス。休戦間近の戦場で上官の不正を目撃した男は、殺されかけるが同僚の兵士に何とか助けられる。
「災厄の子供たち」三部作の第一作。ゴンクール賞。映画原作。
感想
休戦間近の戦場で、功を焦る上官の犠牲になりそうになった男が主人公だ。すんでのところで助けられたが、助けてくれた命の恩人が酷い重傷を負ってしまった。責任を感じた主人公は恩人の看病に尽力し、戦後も面倒を見続ける。
勲章欲しさに無駄な戦いをする軍人や、どさくさに紛れて部下を殺そうとする上官、そして顔の半分を欠損する兵士と、戦争が生む悲劇が詰め込まれた序盤だ。特に顔の半分を失った主人公の恩人の話は、戦争は「英雄になるか死ぬかのどちらかだ」と考える能天気な人々に現実を突き付けてくる。戦争はそんなさっぱりとしたものではない。
彼は主人公を助けた英雄のはずだが、その後は人目を避けて生きていくことになる。戦争が終わっても彼の中では一生続くもので、そんな人たちを大量に生むのが戦争だ。
主人公は、自身の外見にショックを受ける恩人を献身的に支える。まったく生きる気力を見せない彼に嫌気がさして、途中で見捨ててしまってもおかしくないのに、犯罪をしてでも尽くそうとする主人公には感心してしまう。恩人がある計画を思いついて夢中になったのも、彼という他者がそばにいてくれたおかげだろう。孤立していたら何かをしてみようという気にはなれないはずだ。
せっかく生きる希望を感じるようになった恩人だが、やろうとしたのがとんでもない大詐欺だというのが面白い。主人公は良心の呵責で苦しむことになる。確かに倫理的にどうなのと思わないこともないが、戦争の犠牲者である相棒にとっては、勝手に戦争を始め、それが終わったらちょっとお金を出して追悼し、良いことをした気分になって気持ちよくなり、もう済んだこととして処理しようとするなよ、ということなのだろう。何が「感動をありがとう」だと。
戦争が終わったら終わったで、それを飯のタネにしようとする人間は次々と湧いてくる。主人公を殺そうとした上官も、戦没者事業であくどいことをして大金を稼いでいる。酷すぎて笑ってしまうほどだ。主人公らの犯行は、そんな世の中に対する強烈なカウンターだ。成功を前に恩人が絶叫するほど喜んだ気持ちも分からないではない。一矢報いた気分だろう。
そしてそんな世の中でも、恩人の父親や役人など、戦争に真摯に向き合う人々が現れるのは救いだ。世の流れに惑わされずに抗う人もちゃんといる。彼らが元々戦争と距離を取っていた人たちだった、というのも示唆的かもしれない。多くの人は、世間の動きを見て従うか逆張りするかを決めているだけだったりする。
主人公らの計画が大詰めを迎える終盤は、すべての流れが一つにまとまり、一気に緊張感が高まる。そして、それぞれがそれまでやってきただけの報いを受けるラストに、しみじみとした余韻が広がる。
著者
ピエール・ルメートル
登場する作品
関連する作品
映画化作品
「災厄の子供たち」三部作 次作



