★★★☆☆
あらすじ
自力で歩けないほど肥満した男は、余命わずかだと告げられるが、病院にも行かずに自宅で過ごし続ける。
ブレンダン・フレイザー主演、ダーレン・アロノフスキー監督。舞台原作映画。117分。
感想
自力で動けないほど肥満し、家に引きこもる男が主人公だ。何がきっかけでそんなことになったのか、どんな心境にいるのかが描かれていく。
しかしその前に、彼がオンライン授業で収入を得て、デリバリーで食事を賄っていることを知り、そんな引きこもり状態でも今は問題なく生活していけるのだなと、妙に感心してしまった。もちろん、配達は昔からあったし、体調管理をしないと彼みたいに酷いことになるが、それでもテクノロジーの発達はすごい。色んな生き方を可能にする。
もはや余命わずかだと告げられるも病院を拒み、自宅に引きこもる主人公のもとに、いろんな人がやってくる。頻繁に様子を見に来る友人の女性やピザの配達員、離婚後は疎遠になった娘や元妻、そして偶然やってきたカルト宗教の若い宣教師など、彼らとの交流が描かれていく。舞台劇が原作ということで、ほぼ家の中だけでの展開だが、狭いとはいえ家の中を移動することで映像に変化をつけ、それほど閉塞感を感じさせない演出は巧い。
訪れる人々とのやり取りで印象的なのは、互いの思いの噛み合わなさだ。主人公は娘への愛情を伝えたいのに恨まれているので拒絶されるし、友人は主人公を助けたいのに頑なに断られる。皆が求め、求められているが、それらがうまく実を結ぶことはなく、すれ違いや衝突を生んでいる。それどころか、善意が悪意と受け取られたり、主人公の娘のように悪意が善意となることさえある。人間関係はままならない。とかくに人の世は住みにくい。
それでも、人々に関わり合おうとする気持ちが依然としてあることは救いだろう。自分を捨てて家を出ていったと主人公を恨む娘も、裏があるとはいえ何度も会いに来るし、かつて裏切られた元妻も険悪な感じかと思っていたのに、彼の死期が迫っていると知ったせいもあってか、優しい言葉をかけている。主人公自身も、残りの時間を死んだ恋人との思い出に耽って過ごすのではなく、生きている娘に何かを与えることに労力を割こうとしている。
複雑な人間の感情と、うまくいかない人間関係に疲れ果てた主人公が、最後に求めたのは「本当の気持ち」だった。どうせうまくいかないのなら、せめて本音でぶつかり合いたい。そう思ったのだろう。心にもない言葉や馴れ合いの言葉は不要だ。本音ではなく、終始、借り物(神)の言葉で語る宣教師が相手にされないのは、それが生身の言葉ではないからだ。もっとも、それを信じる彼にとっては、本当の気持ちのつもりだったのかもしれないが。
本音でぶつかり、それで通じ合えたのなら最高だ。クジラのように巨体の彼が、宙に浮くような気持ちになるのも分かる。噛み合わない重苦しい展開が続いた後のラストシーンに、ふっと心が軽くなる。
スタッフ/キャスト
監督/製作 ダーレン・アロノフスキー
脚本 サミュエル・D・ハンター
原作 The Whale
出演 ブレンダン・フレイザー/セイディー・シンク/ホン・チャウ/サマンサ・モートン/タイ・シンプキンス

