★★★☆☆
内容
進化心理学者によって紐解かれる人類の歴史と、そこから読み取れる幸せになるための方法。
感想
進化の過程で、人のこころがどのように変化してきたのかが紹介されていく。その中で、人類の発展を促したのは頭の良さではなく、コミュニケーション能力の高さだったという指摘は意外だった。
社会的知性こそがわたしたちの真の知的馬力であり、複雑な問題を解く能力(抽象的思考力をもとに測るIQ)は、進化した社会的能力が偶然生み出したたんなる派生物なのかもしれない。
p169
体の小さい人類がサイズのでかい危険な動物から身を守るには、集団で一丸となって戦うしかない。協力をするためには相手と意思疎通をしなければならないが、そのためには他人が何を考えているのか推し量る能力が必要となってくる。そうやって他者と協力するための社会的能力を発達させてきた。
そして全てにおいて能力の高い人は、新たなイノベーションの機会が訪れても、人とのコミュニケーションで解決できるならそちらを選択してしまうので、文明の発達にはあまり寄与することがない、という話は興味深かった。逆に、イノベーションを起こすのは社会的能力は低いが高い知能を持っている人たち、ということになるらしい。
人類の進化には社会的能力の発達が必要なのに、文明の発展には社会的能力の低い人たちが寄与しているというのは不思議な構造だ。オタクが新しいテクノロジーを発明するが、それを最も享受するのはリア充の人たちみたいなことか。でも世の中でうまくやっているのは頭の良い人ではなく、社会的能力の高い人たちだというのは確かに実感する。
人々が見栄を張ったり自信過剰だったりするのは、社会の中で少しでも良いポジションに立ちたいから。相手を騙し自分を騙して、すこしでも良いポジションにいるように見せかけようとする。そう考えると「マウントを取る」という言葉がよく使われるようになったのは味わい深い。そして、人間も序列争いをして生きる動物たちとそんなに変わらないような気がしてきた。
我々が暮らすのは自由で平等な社会だと言っているが、心のなかでは皆、他人との優劣や序列を気にしている。自由にリーダーを選べる民主主義の世の中なのにあまりその意識はなく、お上には逆らっちゃいけないと思っている。理想を掲げて頭でっかちでここまで来たが、SNSで大衆の声を可視化してみたら、まだまだ中世の封建社会の気分のままだった、というのが世界の現在の状況だろう。
そして実際の所、自由で平等で民主的な世の中なんて全然求めてなくて、理不尽で不平等でも構わないから、サル山みたいに秩序ある階層社会で何も考えずに生きていたいと思っている人がかなりいるのではないかと最近疑うようになった。人類の心の進化といっても、個々で見れば足並みが揃っているわけではなく個体差があるだろうから、それが500年くらい遅れていたとしても不思議ではないだろう。
人間が自ら築いた社会の中で、どのように心が動きそして行動しているかが紹介され、色々と考えさせられる本となっている。人類の進化の歴史から考察する最後の幸せになる方法も、なるほどなと頷かされるものが多かった。
著者
ウィリアム・フォン・ヒッペル
われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか 進化心理学で読み解く、人類の驚くべき戦略 (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)
- 作者:ウィリアム フォン・ヒッペル
- 発売日: 2019/10/19
- メディア: 単行本
登場する作品
Hierarchy in the Forest: The Evolution of Egalitarian Behavior (English Edition)
「White Man's Burden: Slogans of Poetry(白人の責務)」
ラスベガスをやっつけろ!―アメリカン・ドリームを探すワイルドな旅の記録 (Nonfiction vintage)
「Wild Life: Adventures of an Evolutionary Biologist(ワイルド・ライフ)」