★★★★☆
あらすじ
交通事故から目覚めるとビートルズが存在しなかった世界になっており、戸惑う売れないミュージシャンの男。
感想
なぜかビートルズが存在しなかった世界になっており、それを利用してビートルズの歌でスターになろうとする、売れないミュージシャンの物語だ。当然皆が知ってるものとして歌った「イエスタディ」に、友人たちが胸を打たれているシーンが印象的だったが、改めてしっかりとビートルの曲を聴くと心に沁みる。そして特別のファンでなくても、何十曲も知っている歌があるビートルズはやはりすごい。
ただ、主人公がそんなビートルズの曲を歌い始めたのに、最初はなかなかうまくいかなかったのはリアルだった。ビートルズも最初はこんな感じだったのだろう。そこらのミュージシャンと十把ひとからげにされ、曲もまともに聴いてもらえない。皆に認知されるまでのこの最初の段階がきっと一番しんどい。だがそれを乗り越えると、少しずつ道が開けてくる。
主人公を見出す役を、本物のミュージシャン、エド・シーランが本人役でやっているのが面白い。ビートルズの名曲を台無しにしてしまう、彼の間抜けなアドバイスには笑ってしまった。そんなことしたらイメージが悪くなるのでは?と心配してしまうが、本人が面白がってやっている様子なので余計なお世話か。彼は心が広いのだろう。他にもネタにされたり、主人公に負けを認めたりもしているので、きっと彼に対する観客の好感度は上がったはずだ。
順調にスター街道を歩み始めた主人公だが、やがて自作と称してビートルズの曲を発表することに対する後ろめたさを感じるようにもなる。そしてストレスを抱え始めた彼の中で、売れない頃から応援し、マネージャーを務めてくれていた幼馴染の女性の存在が急に強く意識されるようになる。ここから、自分を偽った夢よりも本当の愛が大事、という大体想像がつく流れになっていくのだが、それに甘えてか、このあたりの描き方は割と雑なように感じた。
この映画の中でいちばん胸が熱くなったのは、ビートルズが存在しなかった世界で、そのメンバーたちがどうしていたのかが描かれるシーンだ。それが、ビートルズでなかったら確かにそんな人生を生きていたのかもしれないなと思わせるもので、妙に感慨深かった。それに何より演じる役者がそっくりだったのにも驚いた。
「エリナ・リグビー」のくだりが中途半端に感じたり、イギリス映画に登場しがちな変な友人の面白さもいまいちだったりと、ケチを付けようと思えばいくらでも出来るのだが、ビートルズの魅力がそれらをすべてカバーしてしまっている映画だ。詐称してビートルズの曲を歌っていた主人公の決着のつけ方も悪くなかった。
見終わった後、改めてビートルズを聴きたくなった。
スタッフ/キャスト
監督/製作 ダニー・ボイル
脚本/原案/製作 リチャード・カーティス
出演 ヒメーシュ・パテル/リリー・ジェームズ/ケイト・マッキノン/エド・シーラン/ジョエル・フライ/ラモーネ・モリス/ジェームズ・コーデン/マイケル・キワヌカ/ロバート・カーライル
音楽 ダニエル・ペンバートン
編集 ジョン・ハリス