★★★★☆
あらすじ
独り身で余生を過ごす老婆が、かつて女中として働いていた戦前の思い出を綴る。
感想
戦争中の様子を大学ノートに綴る元女中。しかし、そこで描かれる生活はこの時代を歴史の教科書で学んだ人間の想像とは全く違うものだ。立て続けに戦争を繰り広げていたこの時代は、きっと人々は暗く重い空気の中で生活していたのだろうと思ってしまうが、実際は博覧会だのオリンピックなどで人々はウキウキし、町にショッピングに出かけたりと、思っていたよりも雰囲気は明るい。主人公の甥の息子が現代人が想像する当時の様子を代弁してくれている。この甥の息子がちょっと当時の様子に詳しすぎるきらいはあるが。
まぁ確かに考えてみれば、人はそう何年も暗い顔をして生きていられない。戦地は海外だし、ちゃんとした情報は伝えられて無いし。映画に出かけたり、外食したりと普通に生活している。主人公が奉公する奥さん一家の暮らしぶりを通して、当時の雰囲気がよく伝わってくる。
それでも日米開戦に向けて次第に物資が不足し、節制を求められ、一家の生活にも息苦しさが覆い出す。アメリカとの戦争が始まった途端にパッと雰囲気が明るくなったという記述も意外だった。なんとも無邪気だと思ってしまうが、様々な事態を想定して対処していたのが、方針が決まって吹っ切れたということなのかもしれない。そこからの展開は、本土決戦とか何で勝てると思っているの?という感想だが、まぁ当時は負けることなんて想像もできなかったのだろう。
そして主人公は読者である甥の息子を意識してしまって、自分を良く見せたいという欲が出てしまったということなのか。あの行いは奥さんのためだったのか、もしかして自分のためでは無かったのかと苦悩している。度々出てくる「ある種の頭の良い女中」なら本当はこうしたんじゃないか、という後悔なのかもしれない。
著者
中島京子
登場する作品
「良人の貞操」 映画
「女中さん讀本」
「エノケンの孫悟空」
紀元二千六百年奉祝祝典序曲―Ouverture de F^ete (1940年)
「昨日消えた男」 1941
「待ちぼうけの人々」
せいめいのれきし―地球上にせいめいがうまれたときからいままでのおはなし (大型絵本)
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映画化作品