★★★★☆
あらすじ
庭で死にかけていた子猫を飼うことにした子供のいない夫婦。
感想
猫にかかわった人々を描いた作品だ。そう聞くと、猫大好きな人たちがまさに猫可愛がりするほっこりした様子が描かれているのかと思ってしまうが、全然違う。例えば最初の章に出てくる主婦は、やっと授かった子供を流産してしまった事に頭が囚われ続けている。
動物とか生殖とか血肉とかいうことをあからさまに感じさせる、そんなに覆いをとっぱらった表情を公共の場でしないでほしかった。母子は二人きりの透明な密室の内部にいて、男女の愛よりももっと濃密に赤裸々に、あらゆる手段を使って結び合っていようとしていた。
p11
スーパーで見かけた親子にこんな感情を抱いてしまう。庭にいた死にかけの猫に対しても当初は何度も別の場所に捨てに行っている。小説は三部構成ですべて主人公は違うのだが、皆こんな風にどこか心に闇を抱えている。さらに捨て猫の様子をジッと窺う愛想の悪い小学生や、毎日、息子に弁当とお金を渡すだけで言葉を交わそうとしない父親など、他の登場人物たちもどこか変だ。
もっと言えば、猫もあまり人間に甘えて鳴いたりせず、どこか人間の様子を観察しているような気味の悪さがあり、全体に不穏な空気が漂っている。何かとんでもない出来事が起きるのかと冷や冷やしてしまう。
少し心を病んだ主人公たちが、猫から何かを感じて変わっていく。勿論このテイストなので分かりやすいハッピーエンドは待ち受けてはいないが、確実に何かが変えられた。猫が特に何をするでもなくただそこに生きているだけでも、触媒のように誰かに何かの影響を与えているのは、考えてみれば不思議な気がする。
だから別にこの小説でもその触媒が猫じゃなくても良かったのかな、と思わないでもないが、でも猫だからこそなのかな、と思う自分もいる。最後の章はなかなか心理的負担が大きくて読むのがしんどかったが、でもそれが自然なことなんだよなとスッと心が軽くなるような気分が味わえた。
作者
沼田まほかる