★★★★☆
あらすじ
作家となった寅次郎の甥、満男はサイン会でかつての恋人・泉と再会を果たす。シリーズ50作目。
感想
冒頭はいまいちしっくりこない。オープニングで主題歌を歌う桑田佳祐も悪くはないのだが、どこかコントのようでもある。そんなぎこちない感じは、吉岡秀隆が柴又の商店街を歩きはじめたところで消え去り、スクリーンが一気に「男はつらいよ」の世界へと変わった。
過去の映画のシーンが回想として使われながら、満男と泉の再会の様子が描かれていく。前回の渥美清が死んだ直後に作られた特別編を見た時に、総集編じゃなくて新たな物語を加えればよかったのにと思ったのだが、その時ではなく今回こうやって20年近くの間隔を空けてそれをやったのは正解だったなと、しみじみと感じた。
おかげで皆の役作りが半端ない。映画の中で若々しかった倍賞千恵子や前田吟はすっかりとお年寄りとなり、吉岡秀隆にいたっては小さな小学生から立派な大人へと仕上げてきている。後藤久美子も年相応に老け、残念ながら演技は上達しなかったが英語とフランス語を習得してきている。皆がその年月を物語る姿をさらしている。
それから、あれから今日までの出来事がほぼ語られないのもすごい。くるまやのその後や満男の歩んだ人生、そして寅次郎のことさえも。それでもその場にいる人たちの様子やわずかな情報から色々なことを推し量り、人生は色々あるからな…と勝手に納得してしまっている。
そして回想シーンが現在との違いを示していてノスタルジックな気分にもなる。あの毎日のように賑やかだったくるまやの食卓も、今はさくらと博が二人で寂しく食べているのかとか、いつもいた人が今はもういないのだなと考えて切なくなる。永遠なんてものはなく、いつか終わりの時がやってくるのだなと。
このシリーズは今までテレビやDVDでしか観たことがなかった。個人的にはまさか「男はつらいよ」をスクリーンで、しかも新作が観ることが出来るなんて思っていなかったので、それだけでかなり満足だった。シリーズのマドンナたちや名シーンを大画面で観られたのもお得感がある。年齢層が高めの劇場内で時おり起こる低い笑い声を聞きながら、きっと毎年のように上映していた時はこんな雰囲気だったのだろうなと想像していた。笑い声のキーはもうちょっと高かったのだろうが。
ただ、回想シーンなどはそれを観ただけでそれ以外のシーンも思い出して、脳内で色々補完しているような気もするので、「男をつらいよ」シリーズをあまり見ていない人にはいまいち伝わらない所もあるのだろうなとは思った。
車を降りて泉が母親と言い争うシーン。その間に入る満男を見て、ちゃんと寅さんのスピリットは継承されているんだなと胸が熱くなった。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/原作
脚本 朝原雄三
出演
後藤久美子/倍賞千恵子/前田吟/池脇千鶴/夏木マリ/浅丘ルリ子/美保純/佐藤蛾次郎/桜田ひより/北山雅康/カンニング竹山/濱田マリ/出川哲朗/立川志らく/小林稔侍/笹野高史/橋爪功
音楽 山本直純/山本純ノ介
関連する作品
前作 シリーズ49作目 特別編