★★★☆☆
あらすじ
何もかもが管理・統制された近未来。国家体制に疑念を持つ男は、ある女と知り合い、密会を重ねるようになる。
ジョン・ハート主演。ジョージ・オーウェルの同名小説が原作。イギリス映画。113分。
感想
名作ディストピア小説の映画化作品だ。反体制の人物に憎しみをぶつける「二分間憎悪」のシーンから物語は始まる。大衆は、スクリーンに映し出される反体制の人物に、ありったけの憎悪をぶつけるのだが、この人物の演説をそのまま流すのは、かえって逆効果では?と思ってしまった。
演説の中の「党の言葉を信じてはならない」「党は国民の怒りの矛先を外国に向けているだけだ」「党は国民には仕えていない」など、どこかの国を思い浮かべずにはいられなくなるような刺さる言葉の数々に、自分などはビンビンと感銘を受けてしまった。これを見ていたら、彼の言葉に影響されて、体制の不都合な真実に気付いてしまう人間がたくさん出てきてしまうような気がする。
主人公は、管理・統制された社会に薄っすらと疑問を抱えながら暮らす男だ。完全に体制を信じ切り、ノリノリで踊らされている人々を、どこか冷めた目で観察している。そんな彼がある女性と知り合い、禁じられている密会を重ねるようになる。しかし、それが当局に見つかって逮捕され、徹底的に洗脳されていく、というストーリーだ。
いかにもディストピア社会といった灰色で陰鬱な映像は雰囲気があり、人々の生気のない表情もリアリティがある。しかし、全体的にとても分かりづらい演出となっていて、主人公の仕事ですら何をやっているのか不明瞭だ。何より、このディストピア社会の前提となる世界観の説明が不十分で、原作を読んだ人にしかちゃんと伝わらないのでは?と危惧してしまう。
冒頭のシーンにしても、見終わった後に色んなサイトを巡っているうちに、ああ、あれは小説にあった「二分間憎悪」だったのか、と気付いたくらいだ。どんな社会システムなのか、そこで人々はどのような日常生活を送っているかなど、物語のベースとなる部分をもっと分かるように描いて欲しかった。
おかげで、主人公の悲劇を自分事のように身につまされる思いで見るのではなく、気の毒な人がいるな、可哀想だなと、どこか遠い世界の悲しい出来事でも眺めるような感じで見るだけだった。
とはいえ、そこで描かれる世界観には、やはり色々と考えさせられるものがある。データを改ざんしたり、歴史を書き換えたりと、本当にどこかの国でやっていることと同じだなと、しみじみとしてしまう。まともなことを言っているのに敵設定をして、「二分間憎悪」の対象として大衆を煽る手法も、どこかの首相が印象操作のために、悪夢のなんとかと何度も口にしていたのと似ている。
我々も気付かないうちに洗脳されているのかもしれない。改めて自分の中に思い込みがないか点検してみる必要があるだろう。もしかしたら、本当に自分たちのことを考えてくれていたのは誰だったのか、「ごん、お前だったのか」とハッと気付く日がいつか来るのかもしれない。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 マイケル・ラドフォード
原作
出演 ジョン・ハート/リチャード・バートン/スザンナ・ハミルトン/シリル・キューザック
音楽 ドミニク・マルダウニー/ユーリズミックス
撮影 ロジャー・ディーキンス


