★★★★☆
あらすじ
宗教国家となった近未来のアメリカで、支配者層の子どもを産む道具として生きる事になってしまった女性。
感想
タイトルからどことなく中世ヨーロッパの貴族社会を描いた物語なのかと想像していたが、近未来のディストピア社会を描いたSF小説だった。女たちの自由は大幅に制限され、子どもを産むことが最善とされる社会。そして子宝に恵まれない権力者たちには、妻の代わりに子供を産む女が「侍女」としてあてがわれることになっている。主人公はそんな「侍女」として、司令官と呼ばれる男の家に仕える女性だ。
物語の背景となる社会の様子や主人公の置かれた状況は、最初に詳しく説明されることなく始まり、次第に少しずつそれらが明かされていくという構成。とはいえ、主人公自身もすべてを把握しているわけではないので、最後までどうしてそのような社会となったのか、そして具体的にはどんな社会システムなのかといった詳細は分からない。でもきっと抑圧されたディストピア社会が実現する時には、こんな風に詳しい説明もなく、よく分からないうちにそうなってしまっているのだろう。確かな情報がなければ対処のしようがなく、ただ従うしかない。
そんないつの間にかディストピアとなった社会で、生きていかなければならなくなった主人公。自由のない社会で従順なフリをしつつも、密かに監視の目を盗んでは、わずかな自由を享受する姿がリアルだ。案外、ディストピア社会になっても、人々は完全に飼いならされてしまうのではなく、こんな風に面従腹背で生活するような気がする。勿論、今の社会でも見られるように、自ら進んで盲目的に服従する人たちもある程度はいるとは思うが、多くの人は制限の中でも出来ることを探り、隙あらば監視の目をかいくぐろうとするのだろう。
わたしは彼女を他人の目だけを意識して行動する女だと思っている。自然に振る舞うのではなく演技をする女だ、と。
単行本 p41 下段
自由のない監視社会では、他者と連帯することが難しいのが最大の難関だ。いくら面従腹背だとしても、誰もが密告を恐れて他人の前では従順なフリをする。主人公は相互監視のためにペアを組まされている女性を、「演技する女」だから信用ならないと警戒しているが、それはまた相手も同じで、従順なフリをしているだけの主人公を全く同じように信用ならないと警戒している。こんな風にいちいち他人を疑ってかからなければいけない状況では、監視の目を盗んで享受する自由もごくわずかなものしかない。だから「侍女」としての任務からも逃れられず、唯々諾々と従うしかない。そんな主人公を覆っている諦念にはやるせなさを感じてしまった。
最後はなんとなく「アンネの日記」を彷彿とするような、突然プツリと途切れてしまう終わり方。その後、彼女がどうなったのか色々と想像してしまう。
著者
マーガレット・アトウッド
登場する作品
「愚案一つ」 ジョナサン・スウィフト
「バレエ音楽《レ・シルフィード》(レ・シルフィド)」
「Come to the Church in the Wildwood (Church Organ Version)(原始林の中の教会へおいで)」
「Whispering Hope(希望のささやき)」
「ハード・タイムズ(困難な時世)」
「There Is a Balm in Gilead(ギレアデに平穏あり)」
関連する作品
続編