★★★★☆
内容
これまでの人類の歴史を振り返り、今後どうなっていくのかを予測する。
感想
人類、ホモ・サピエンスの歴史が語られていく。序盤はそこまで面白いという事はなく、これまでのおさらい、再確認といった感じなのだが、時々、興味深い考え方が出てくる。
農業革命は、史上最大の詐欺だったのだ。
では、それは誰の責任だったのか?王のせいでもなければ、聖職者や商人のせいでもない。犯人は、小麦、稲、ジャガイモなどの、一握りの植物種だった。ホモ・サピエンスがそれらを栽培化したのではなく、逆にホモ・サピエンスがそれらに家畜化されたのだ。
上巻 p107
人類の歴史のターニングポイントとされる農業革命。これにより人類の生活が安定したので良い事だったと思い込んでいたが、実際の所はそうとも言い切れないようだ。確かにこれによって人口は増加し、サピエンスという種が生き残るには有利だったが、一人一人を見るとむしろ狩猟生活の方が幸せだったかも、というのはなんだか不思議な気分にさせられる。全体としては成功だが、個々で見ると失敗という結果。これは誰が喜べるのだろう。
そして資本主義、帝国主義と共に、人類の発展の大きな要因となった科学の意義。知らないことがあると認めることで、皆が調査し、明らかにしようとする。そんなの普通の事だと思ってしまうのだが、それ以前はそうではなかったのか。それまでは知らない事、分からないことはすべて神の御業的なものだという事にして無理やり納得していたという事か。
分からないことをそのままにしておくのではなく、何が分からないのかを明らかにして、調べていく。分からないことが分かるようになるというのは自信が持てるし、未来が明るいものに思えてくる。確かにこれは個人でも同じ。無知を認めない人は何年経っても同じことを言っていて暗澹たる気持ちになる。未来が明るいと思えるようになって、人類の進歩は加速した。
そんな風に、ときどき感心する程度で読んでいたのだが、下巻の最後で語られる今後の人類についての考察は、自分の予想を超えていて刺激的で面白かった。そんなのSFの世界でしょと言いたくなってしまうが、よく考えれば今の科学ですべて出来そうな事だった。それを止めているのは主に倫理観だが、やがてそれも少しずつ変化していくのだろう。
これからの人類は、DNAをいじったり、コンピューターを導入したりと、おそらくどんどんと人間の手が加えられていく。もはや今の人類は理解できない存在になるという。ちょうど我々が科学のなかった時代をよく理解できなかったように、新しい人類はまるで珍奇なものを見るかのように今の人類を見るのだろう。
とはいえ、新しい人類を作るのは今の人類のわけなので、どんな人類を作るべきなのかをしっかり考えるべきだ、それにはまず我々は何を求めて生きているのか改めて考える必要がある、という結び。確かに神様の役目をすることになるので、頼んでもないのに何で生んだんだ!と責められないようにしたいものだ。
そんな大変化が起きるのは何年後、何世紀後になるのか分からないが、その前に一旦世界はディストピア化するのでは、という気が最近はしている。「ディストピアだ。最悪だ!」ではなく、「ディストピアなの?そんなに悪くないけど。」というタイプの「すばらしい新世界」的なディストピア。ネットの普及で可視化されるようになった大衆を見てみれば、民主主義はそれほど理解されず、根付いていなかった事が良く分かる。もしかしたら人類には向いていないのかもしれない。
著者
ユヴァル・ノア・ハラリ
サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福 - Wikipedia
登場する作品
「スペイン黄金世紀演劇集」所収 「ヌマンティアの包囲戦(ヌマンシアの包囲)」
「牧歌/農耕詩 (西洋古典叢書)」所収 「ゲオルギカ」 ウェルギリウス
資本論 第一部草稿~直接的生産過程の諸結果~ (光文社古典新訳文庫)
「自然哲学の数学的諸原理(プリンシピア 自然哲学の数学的原理 全3冊合本版 (ブルーバックス))」
「フランケンシュタインあるいは現代のプロメシュース」 メアリー・シェリー
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