★★★☆☆
あらすじ
銀行強盗に巻き込まれるも無事生還した銀行員の女は、富士の樹海のどこかに置き去りにされた犯人が奪った大金を回収しようとする。
西田尚美、利重剛ら出演、矢口史靖監督。83分。
感想
子供の頃からお金が大好きで、銀行員になった若い女が主人公だ。彼女の生い立ちから物語の前提となる銀行強盗に遭うまでを、面白おかしくテンポよく描くタイトルクレジットまでの流れは見事だ。映画の雰囲気も伝わり、すっと物語に入っていける。
強盗が奪った大金が入ったスーツケースとともに漂流し、なんとか生還した主人公は、現場に置き去りにしたスーツケースを回収するために動き出す。とりあえず記憶を頼りに現場に向かうが、富士の樹海の迷宮に阻まれてしまった。そこでまずは富士の樹海を攻略すべく、テレビで見た樹海に詳しい地質学者のいる大学を訪れ、そこで学ぶことにする。彼女のシンプルな思考とその行動力につい笑ってしまう。
大学に無事入学してからも、貯め込んでいた貯金を惜しみなく使い、高価な機材を買い揃え、水泳にスキューバダイビング、運転免許にロッククライミングと、知識以外に必要な能力も身につけようと学び始める。やりたいことが分かっていて、そこから逆算してやるべきことをやっているから効率がいい。彼女のようにシンプルに生きられたら、人生なんて本当は簡単なんだよなと思い知らされる。
使いたい放題だった資金が尽きてしまい、大学の授業料が払えなくなってしまった主人公が、あっさりと大学を辞めてしまったことには驚いた。しかし、考えてみれば必要な知識を学ぶことが目的だから、もう十分だと思ったのならそれで構わないのかもしれない。ここで、「せっかく入学したのだから卒業しないと」と頑張ると、手段が目的化して本当にやりたかったことを見失い、人生がややこしくなっていく。多くの人がハマっている落とし穴だ。実は重要なターニングポイントだった。
いよいよ大金の回収を実行に移した主人公が、あっさりと目的を果たしてしまったのはやや拍子抜けだったが、もはやそんなことはどうでもよく、目的があれば充実した人生を送れるよ、ということを言いたかったのだろう。お金が大好きというだけでも、こんなことになる。
金欠になった彼女が、賞金獲得のためにロッククライミングや水泳の大会で優勝していたのは可笑しかったが、それに魅力を感じたなら、彼女にライバル心を燃やしていた女のように、それを目的に変えてもいい。やりたいことに取り組んでいれば、その過程でいろんな世界を知り、いろんな可能性に巡り会える。やりたいことをやるという原則さえ忘れなければ、心変わりするのもありだ。
主演の西田尚美が、女らしさを出さずに演じており、余計なノイズがないのがいい。風俗店で働くシーンすらあるのに色気を感じさせないのだから、演出を含めてかなり意識的にやっている。目的以外には関心がないという彼女のキャラクターもよく表れている。
クライマックスがどこだかよく分からない、やや盛り上がりに欠ける構成ではあったが、どう転がるのか分からない展開で楽しませてくれる。お金が大好きだからお金は不要というのも皮肉で、コメディではあるが、いろいろと考えさせられる映画だ。深い余韻が残る。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 矢口史靖
脚本/出演 鈴木卓爾
出演 西田尚美/利重剛/加藤貴子/田中規子/松岡俊介/伊集院光/徳井優/西牟田恵/濱田マリ/鶴田忍/角替和枝/内藤武敏/田中要次/木村多江
音楽 矢倉邦晃
