★★★☆☆
あらすじ
痴呆症の義父の介護に疲れ果てる主婦は、ある日訪れたクリーニング屋で中学時代に関係を持った元教師と再会する。
感想
義理の父親の介護、それを見ているだけの夫、同じような日々が繰り返される主婦の生活、そんな現実に嫌気がさした女の前に登場したかつての男。簡単に言えば、焼け木杭に火が付いたという事なのだが、簡単にはすまされない複雑な事情がある。
彼らが関係を持ったのは主人公が中学生の時で、教師と教え子というときだった。詳細は描かれないが、彼らの中で同意があったとはいえ当然問題となり、別れさせられたのだろう。当然未練は残る。しかし、主人公にとっては世間の冷たい目にさらされた経験から恨む気持ちもある。
元教師に再会したばかりの主人公はその二つの感情の間で揺れている。おそらくはこんなはずじゃなかった今の生活を、彼のせいだと思い込みたいところもあるのだろう、激しく怒りをぶつけたりもする。しかし、しだいに二人はよりを戻していく。
しかし、複雑な思いを抱える主人公はともかく、元教師で今はクリーニング屋の男のクズぶりが際立っている。自分の欲望に忠実というか、妻がいるにもかかわらずそういう現実は一切考慮しない。さすが中学生の教え子に手を出すだけのことはある。
主人公はそれが現実逃避でしかないと気づき現実に戻っていくのだが、男は未練たっぷりで、まったく現実を受け入れられていない。男の意志は関係なく、周りの優しさに助けられただけだ。彼はきっときっかけさえあれば、何度でも同じことをするだろう。
そして彼のような放っておけば破滅してしまうような男を、助けてしまう人たちがいるのも現実。男は何も考えずに流されているだけの所があり、男前でもあるので、放っておけないと思ってしまう人が必ず出てくる。そう考えると大抵の人が何とか生きていけるお人よしの良い社会なのかもしれない。
なるべく説明を省こうとしているのは分かるが、二人が再会して互いの存在をいつ認識したのか、主人公は男にいつ怒りを覚え、いつかつての感情がよみがえったのかなど、そのスイッチが入った瞬間があまり描かれていないので、いつも置き去りを喰らった気分になるのがモヤモヤした。
自転車に乗った主人公の見事な転倒ぶりは一見の価値あり。笑えるほど見事だった。
スタッフ/キャスト
監督 小沼雄一
出演 赤澤ムック/川本淳市/広澤草/三浦誠己/上田耕一/辰巳琢郎