★★★★☆
あらすじ
友人が殺されたことに責任を感じ、大学を辞めてライドシェアで実家に戻る女子大生は、乗り合わせた運転手が友人を殺した殺人犯でないかと疑い始める。
感想
大学の掲示板で募集したライドシェアの相手が、殺人鬼ではないかと疑い始める女子大生が主人公だ。序盤は、車の中で疑心暗鬼になった主人公が、同乗する男を注意深く観察し、考えをめぐらす様子が描写されていく。
男の怪しい挙動に不信感を募らせても確証はなく、そうであって欲しくない願望もあって、主人公は結局何も出来ず、ズルズルとドライブを続ける。だがこの気持ちは痛いほどよく分かる。もし自分の判断が間違っていたら、相手は気分を害するだろうし、大げさな勘違い女だと馬鹿にしてくるかもしれない。
それにこれがきっかけとなって逆上され、本当に襲われてしまう可能性だってあるわけで、勇気のいる難しい決断だ。白とも黒とも言えないグレーの状態でドライブは続く。主人公の心中は想像するだにしんどい。男が夜道を歩いていたらたまたま同じ方向に向かっていた前を行く女に不審者扱いされた、というよくある話も、きっとこんな心境なのだろうなと理解できる。
主人公と男の車中での緊張感のある駆け引きが続いた後、休憩に立ち寄ったドライブインで自体は急展開を迎える。それまでどうやって逃げるかばかりを考えていた主人公が、真逆に方針転換したのには驚き、そして胸が高鳴った。とはいえ現実世界で同じことをしようとする人がいたら全力で止めた方がいいやつではある。
ここからは意外な出来事が次々と起こる。こうなっていくのだろうなという予想が次々と裏切られ、手に汗握る展開だ。前半の車中の密室からオープンな場所へと舞台が移る構成もいい。たださすがに色々なことが起こり過ぎて、最終的には選択肢が一つしか残っておらず、ラストがどうなるのかは読めてしまったがそれは仕方がない。
主人公が映画好きの設定で、あちこちで映画の引用がされるのも良いアクセントだ。それに引掛けたひねったラストも気が利いていた。映画のような読み応えの小説だ。
著者
ライリー・セイガー
登場する作品
サウンド・オブ・ミュージック 製作45周年記念HDニューマスター版 [DVD]
「森の彼方に」
偉大なるアンバーソン家の人々 HDマスター [HD DVD]