★★★★☆
あらすじ
ある事件をきっかけに介護ヘルパーの仕事をクビになり住む所も失った女が、町で出会った老人たちの家に無理やり上がり込み、介護ヘルパーを行うようになる。
感想
老人の弱みを握って家に上がり込むと聞くと、どうしても家の乗っ取りとか財産の強奪とか暗い事件を想像してしまうが、この主人公は上がり込むのは強引だが介護ヘルパーの仕事はちゃんとする。しかも食費を抑えておいしい食事を作るし、真心を込めて介護をするしで、相当レベルが高い。
登場する老人たちも様々だ。詐欺師を友人と思い込むことで孤独を紛らわそうとする老人、今も重要な人物であるかのように取り繕おうとする老人、戦争の思い出が溢れ出してしまう老人。それぞれがそれぞれの歴史を抱えて生きている。きっと監督は様々な老人達がいること、彼らを簡単に一括りにすることはできない、ということを描きたかったのだろう。
老人たちの中では津川雅彦がいい演技をしていた。バレバレの虚勢を張ったり、ボケて何度も台詞がループしつつ戦争への思いを語ったり、煩悩に苦しんだり。中でもボケた妻の歌声に重ねるように口ずさむ場面は、「生きる」の志村喬を彷彿とさせた。その他、吉本興業の芸人たちもなかなか味のある演技だった。
介護の仕事は、そんな様々な人生を歩んできた老人たちを相手にしなければいけないから大変だ。同じ対応をしても喜ぶ老人と怒る老人が出てきそうだ。主人公のような介護ができる人間じゃないと難しそうだが、きっとこんな人はそういない。逆に勝手に家に上がり込んで家を乗っ取ったり、財産を奪う事件が高齢化社会では増加しそうで暗澹たる気分になる。
主人公を演じる安藤サクラの魅力的なキャラクターのおかげで基本的には面白く観ることはできたのだが、どう考えても三時間以上の上映時間は長すぎる。それから映画にするために最初と最後をつなげたのだろうが、ちょっとムリが生じている気がするし、エンディング後の主人公たちがどうするのか、全く想像できないのが苦しい。
きっとお年寄りにこの映画を見せたら、安藤サクラは絶大な支持を得そうなので、NHKは彼女主演の朝ドラをやる前にこの映画を何回か放送したらいいんじゃないかと提案したくなる。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 安藤桃子
製作総指揮 奥田瑛二
出演 安藤サクラ/坂田利夫/草笛光子/木内みどり/織本順吉/角替和枝/浅田美代子/ベンガル/井上竜夫/東出昌大