★★★☆☆
あらすじ
妻に離婚をきりだされた男は、友人の父親である有名画家が住んでいた小田原のアトリエで暮らし始める。
感想
突然妻に離婚をきりだされて家を出て、北海道・東北を車で彷徨ったのちに、小田原に落ち着いた主人公。そこでかつての住人の有名画家が残した謎の絵を発見してから不思議なことが次々と起こる。
「顕れるイデア編」と「遷ろうメタファー編」となっているだけに、簡単には理解できないような内容ではあるが、ただ難解なのではなくポップさがあるところがこの著者の凄さなのかもしれない。個人的には騎士団長の喋り方が好きだった。
彼が主人公を「諸君ら」と複数形で呼ぶのは、一人の人間の中には多重人格的に様々な人間がいるからなのかもしれない。その時々で色んな一面が顔を出すし、少女が女に変わるように時間と共に変わることもある。
このように小説の中では確かなものなんて何一つないのでは?と訴えられているような気がする。変わらない人間はいないし、確かな結婚生活なんてないし、生死の境目だって曖昧だ、昨日と同じ日々が続く保証なんてないし、地震や津波が一瞬ですべてを変えてしまう事だってある。
だから様々なことから距離を取ってそれに振り回されないようにするのではなく、それでもそんな世界に踏み込んで、様々な変化を受け入れていくことが、生きているという事なんじゃないか、そんなメッセージが感じられた。そして確かなものなどない世界で、曖昧なものたちをアートで表現するということはかなり有効なのではないか、という事も。
そのほとんどが主人公が住む小田原の家で展開されるために、少し停滞感がある。いつか読み直した時にはまた別の感想を持ちそうな、色々な考えが頭の中をめぐる作品。
著者
登場する作品
シューベルト : 弦楽四重奏曲全集 6 第15番
改訂 雨月物語 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)「二世の縁」
「エルナー二」 ヴェルディ
ベートーヴェン : ヴァイオリン・ソナタ 第9番 イ長調 作品47 「クロイツェル」
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