BookCites

個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「20 センチュリー・ウーマン」 2016

20 センチュリー・ウーマン(字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 父親のいない息子のために、身近な若い女性二人にサポートを依頼した母親。

 

感想

 40歳の時に産んだ息子を女手一つで育ててきた母親。世の中が目まぐるしく変化した20世紀の初頭に生まれた彼女にとって、40も年の離れた子供のことがよく理解できないと思ってしまうのも分からないではない。

 

 しかしこの世代ほど世の中の激変を体験した世代はいないのではないだろうか。世の中が変化しているのは今でも体感できるが、若い世代の文化がまったくの意味不明だと思ってしまうような事はまず無い。無害な歌手が無害な内容をお行儀よく歌う音楽しか知らなかった母親は、息子が好きだというパンクロックを聴いて理解できずに大いに戸惑っていたが、今後人類が文化の激変で彼女のような戸惑いを体験することはもうないような気がする。

 

 

 そんな彼女の15歳になった息子は、元々まわりに女性が多いからか、すでに中性的で、幼なじみの少女と同じベッドで特に何をするわけでもなく毎晩一緒に寝たりしている。その上さらに世代の近い女性たちに色々教えてもらったりしたら、将来めちゃくちゃモテてしまうのだろうなと思ってしまった。こういう男になって欲しい、女性のこんな事について知って欲しい、という彼女たちの願望をすべて吸収していく。

 

 ただこれは一見悪くないように見えて、実際には女性にとって都合がいいだけの男になってしまいかねない危険も潜んでいる。男女逆の場合を考えればわかりやすいが、男尊女卑の世界で教育されれば男に都合の良い女になってしまうし、独裁政権下で教育されれば独裁者に都合の良い国民になってしまう。誰がどのような意図で教育を行うのかを意識するのはとても大事だ。

 

 この息子とサポート役の二人の女性、そして母親らの決してスマートではない不器用なやり取りは、それぞれの思いがぶつかる様子が見て取れて心に沁みる。グレタ・ガーウィグとエル・ファニング演じる二人の女性もそれぞれの事情を抱えている。他人は決して自分の思い通りにはならないが、それでも交わろうとすることで人は成長していく。

 

 そんな中で、母親が何かというと人を自宅に招きたがるのがなんだか可笑しかった。しかも全然社交辞令ではなく本気なので、次のパーティーシーンに声をかけられた人がちゃっかり居るのが面白い。これは世界恐慌の時代に生まれた彼女ら「助け合う世代」の特徴らしい。自宅に何人かを下宿させているのも同じことなのだろう。だがこれらは若い世代にとっては奇特な行為に思え、ジェネレーション・ギャップを感じてしまう事なのかもしれない。

 

 他の出演者たちの演技も良かったが、アネット・ベニング演じる母親の威厳のある凛とした佇まいが良かった。息子が問題行動をしても取り乱すことなく常に堂々としている。それでいて息子の好きなカルチャーを理解できないと突き放すのではなく、体験し学んでみようとする柔軟な姿勢があるのも好感が持てた。使われている音楽も良い。

 

 しかしこの年頃の子供は自立したいと親を疎ましく思う一方で、これまで通りの愛情を求めてもいて、なかなかの面倒くさい存在だ。この矛盾を親と子それぞれがどう処理していくのかで、その後の親子関係は決まってしまうのかもしれない。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 マイク・ミルズ

 

出演 アネット・ベニング/グレタ・ガーウィグ/エル・ファニング/ルーカス・ジェイド・ズマン/ビリー・クラダップ/アリア・ショウカット/ダレル・ブリット=ギブソン/アリソン・エリオット 

 

音楽 ロジャー・ネイル

 

20センチュリー・ウーマン - Wikipedia

20 センチュリー・ウーマン | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com