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「黒い十人の女」 1961

黒い十人の女

★★★★☆

 

あらすじ

 9人の不倫相手と本妻が、その相手であるテレビ局プロデューサーの男を殺す相談をする。

 

感想

 冒頭の、8人の女がひとりの女を尾行するシーンからして異様な雰囲気を醸し出しており、グッと惹きつけられる。一癖ありそうな女たちが集団で蠢いているというのはあまり見ない光景かもしれない。彼女たちを演じるのは、山本富士子や岸恵子、岸田今日子らなかなか豪華な面々だ。中でも生意気な若い女を演じる中村玉緒が可愛らしい。女同士だからか、職場が主な舞台だからか、皆あまり着飾っておらず素っ気ない感じがなんか良い。今でも街で見かけそうな出で立ちをしている。

 

 テレビ局プロデューサーの男の不倫相手と本妻が互いに知り合い、奇妙な関係を築いていく物語。そんな女たちを結び付けた浮気者の男を演じる船越英二がいい味を見せている。そもそも9人もの女性と不倫しているという設定が現実味がなく、ここで男がガツガツと欲望丸出しだと生々し過ぎてさらに嘘っぽくなりそうだが、どこかふわふわとしたような飄々とした演技を見せて、この感じならあり得るかもしれないなと思わせてくれる。

 

 

 奇妙なテイストの軽いブラックコメディといった様子で話は展開していくが、終盤は徐々に深みを増していく。テレビ局で働く男が常に忙しさに追われているのが印象的だったが、彼は何かと慌ただしい世の中で、その場その場の対応をすることだけに終始し、本来の目的を見失ってしまっている現代の人々を象徴している存在だと言える。彼が浮気をするのはその場その場で都合の良い事を言って流れに身を任せていたからだし、妻とすれ違うのも受け身で雑事をこなすばかりで妻との時間を能動的に持とうとしなかったからだ。何も考えずに目の前の事だけ処理する事に慣れてしまい、本当は何がしたいのか、自分でも分からなくなってしまっているような状態だ。

 

 最後は、そこで終わり?と一瞬思ってしまったが、男だけでなく彼女もまた、どこかで悲劇が起きても気にすることなく、我が事だけに集中しようとする現代人のひとりなのだという事を示しているのかもしれない。ただ逆に世の中で起きるすべての悲劇に関わっていたら自分の人生が滅茶苦茶になってしまうので、それもまた程度問題ではあるのだが。一見奇妙だが意外と深いテーマが潜んでおり、見ごたえがあって印象に残る映画だった。

 

スタッフ/キャスト

監督 市川崑

 

脚本 和田夏十

 

出演 山本富士子/宮城まり子/中村玉緒/岸田今日子/船越英二/岸恵子/伊丹一三/浜村純/ハナ肇とクレイジーキャッツ/佐山俊二

 

音楽    芥川也寸志

 

黒い十人の女 - Wikipedia

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