★★★★☆
あらすじ
西海岸のカトリック系の保守的な土地で暮らす女子高生は、地元が嫌でニューヨークの大学を目指すが、そりの合わない母親に反対されてしまう。
感想
保守的な土地柄でカトリック系の学校に通い、同級生は金持ちばかりなのに自分の家庭は経済状況が苦しい女子高生が主人公だ。好奇心旺盛な年頃には退屈な街で、しかも同級生に対して劣等感を持ってしまうような状況では、よその街に出て行きたくなるのは当然だろう。大学進学はその絶好のチャンスだ。
十代の若者がここではないどこかを目指すのはよくある話だが、この主人公はどこにでもいそうなその等身大ぶりがいい。勉強は出来ないし、部活をしても中心的存在にはなれないし、嘘をついてイケてる同級生と友達になったのにバレてしまうし、彼氏ができたと思ったらクズ男だったしで、ことごとく冴えない。全然キラキラしていないが、ほとんどの人にとっての青春なんてそんなものだ。とてもリアリティがある。
そんな現実でもがく主人公の姿がコミカルに描かれていく。挫折をしてもくじけず、何とか最善を尽くそうとする彼女の姿はたくましい。とても共感を呼びそうなキャラクターだ。イケてる友人たちが卒業パーティに出るのをよしたとき、彼らに流されずにひとり別れて親友に会いに行き、一緒にパーティに出るシーンはグッと来た。自分の気持ちに決して嘘をつかない。
どうにか学校生活をこなしている主人公にとっての最大の難関は、母親との関係だ。何かとネガティブな言葉をかけてくる母親とはすぐに喧嘩になってしまう。やる気を失くすようなことばかり言う身内は結構どこにでもいて、本人は良かれと思ってやっているから厄介だ。他人であれば関係を断てばいいのだが、肉親だとそうはいかない。主人公もなんとかうまくやろうとするのだが、結局は適度に距離をとるのがベストな方法なのだろう。素直な愛情表現が出来そうな時だけ接近し、それ以外の時はなるべく接触せずに離れていた方がいい。
色々ありながらも、母と娘の関係を描くことが主題となっている。二人の気持ちがすれ違って最後のチャンスに間に合わず、感動的な別れとはならなかったシーンはリアルだった。世の中そうそう都合よく物事は運ばない。それを踏まえた上で、後悔しないように今を大事に生きるしかない。
なんとなく雰囲気的に主人公は地元に残ることになるのかと思ったのだが、そうならなかったのは良かった。誰しも一度くらいは別の土地で暮らしてみるべきだ。そうすることで地元の良さや悪さが見えてくることもある。エンディングで実家へ電話した後に、主人公が見せるどこか迷いのある表情がとても印象的だったが、戻るのか残るのか、この先どうするかは今後ゆっくり考えればいいことだ。何も焦る必要はない。これまで通り、これからもがんばれと応援したくなるような結末だった。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 グレタ・ガーウィグ
出演 シアーシャ・ローナン/ローリー・メトカーフ/トレイシー・レッツ/ルーカス・ヘッジズ/ティモシー・シャラメ/ビーニー・フェルドスタイン/スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン/ロイス・スミス/オデイア・ラッシュ/ジェイク・マクドーマン/ローラ・マラノ/キャスリン・ニュートン
音楽 ジョン・ブライオン