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「野菊の如き君なりき」 1955

野菊の如き君なりき

★★★★☆

 

あらすじ

 農家の青年とそこに手伝いに来ていた年上の女性の叶わぬ恋。

 

感想

 最初はいまいち人間関係が分かりづらかったが、主人公は農家の次男で、彼が恋する少女は母親の弟の娘で従妹にあたる。ただこの少女が奉公人のような扱いなので混乱してしまった。なんだか変な感じがしてしまうが、家中心の考え方だと、嫁入りしてきた女の実家の人間、他家の人間だから、ということらしい。ややこしい。

 

 幼い頃から一緒に育った主人公と少女。大きくなっても子供がじゃれ合うように仲が良い。しかし年頃の男女ということで心配する兄の嫁や、それを快く思わない奉公人の女、噂話をする近所の者たちの存在によって、二人の関係はギクシャクしたものになっていく。わざと聞こえるように嫌味を言ったりして、いかにも村社会の嫌な部分といった感じだった。

 

 

 ただ、あまりにも無邪気にじゃれ合っている二人の様子を見ていると、心配になる気持ちも分からなくもない。二人が結婚してもいいと思っているのなら放っておけばいいが、その気はないのなら何らかの対処はするべきだった気はする。

 

 一家を取り仕切っている母親は、口では困ると言いながらも、実の息子と姪なのでどうしても甘やかしてしまう。適切な距離を取れと忠告するくせに、二人きりになるよう仕向けたりもする。この本音と建前をうまく使いこなせない感じ、厳しい事を言いながらも可哀そうになって泣いてしまいそうになる感じを、杉村春子が流石の演技で魅せてくれる。

 

 恋愛は反対されると燃える、とよく言われるように、結果的にはこの周囲の反応が二人を離れ難くしてしまった。適切に対処していれば、二人が「そんなこともあったな、若かった」と青春の思い出として軽く笑える未来があったような気もする。

 

 周囲の余計な配慮のおかげで、どんどんとこじれていってしまう二人の思い。そんな中で少女を思いやる祖母の言葉が刺さる。しかし、年寄りというのはずけずけと本音を言うが、あれは何故なのだろう。家を守らなければいけない責任を感じている当主の世代とは違い、すでにその責務から解き放たれた自由さや無責任さがそうさせるのだろうか。もしかしたら、かつて同じような事をした後悔があるせいなのかもしれない。

 

 なんとなく予想できる展開だったにも関わらず、やっぱり二人の悲恋に涙が出そうになってしまった。仲が良かった二人が引き離されていく過程の描き方がうまい。純粋で素朴な二人だっただけに悲しみが深くなる。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 木下惠介

 

原作 野菊の墓

 

出演 田中晋二/有田紀子/田村高廣/小林トシ子/杉村春子/雪代敬子/浦辺粂子/谷よしの

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音楽 木下忠司
 

野菊の如き君なりき - Wikipedia

 

 

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