★★★★☆
あらすじ
兄の頼朝と合流し、目覚ましい活躍で平家を滅ぼすも、兄に恐れられ疎まれるようになってしまった源義経。
感想
3年前に読んだ前作はほぼ内容を忘れてしまっていたが、今作では源義経が兄・頼朝と合流してから、兄に疎まれ都落ちするまでが描かれる。そして義経の伝説的なエピソードがたくさん生まれた平家との戦いが、わずか数行で片づけられてしまっていることに驚いた。これはこの作品の元となっている「義経記」でもそうなっていて、「平家物語」との重複を避けるために端折られているようだ。漫画や映画の人気キャラを主役にしたスピンオフ作品や外伝のようなものと考えればいいのかもしれない。
今回は兄に疎まれてしまった義経の気怠い様子が印象的だ。兄の誤解を解いて一緒に盛り立てていきたいという強い気持ちはあるものの、その一方で思うようにならない自身の境遇に気が沈み、無気力さに苛まれている。その様子が現代的な軽いノリで描かれているから笑ってしまう。でもきっと今の政治家だって、内心では同じようなことを考えているのかもしれない。「記者会見?怠いわー。質問されてもよく分かんないから答えられないし。あ、そうだ!専門家を隣においてそいつに答えさせたろ。」みたいな。
そして都落ちする義経に従う部下たちの反応もリアルだ。義経の様子や情勢を見ながら、ヤバくなったら転職しようかな、などと考えている。主君に死ぬまで忠誠を誓う「武士道」というのは江戸時代に出来た概念で、それまでは割と主従の関係はラフなものだったらしい。義経や頼朝が部下の人心を掌握するために、彼らの様子を窺いとても気を使っているのが面白い。でもこれは日本以外の世界中の会社で見られる雇用関係とほとんど変わらない。そう考えるとその後生まれた「武士道」というのは、もしかしたら「社畜」の原型なのかもしれない。日本人はこの武士道を誇らしく思いがちだが、それよりもそれ以前の中世武士のマインドを見習った方が、日本人も日本も幸せになれるような気がしないでもない。
最後の義経とその恋人・静御前との別れのシーンは物悲しい。もう二度と会えないだろうと悟っている二人の名残を惜しむ場面。だがそんな状況でも、部下たちのいい加減にしろ、早くしろ、という空気を敏感に感じ、気にしている義経が別の意味で悲しい。そして京まで送り届けられるはずだった静御前が裏切られて山中を彷徨うシーンでは、当時の人々の神仏との接し方や考え方が自然と受け入れられるように語られていて、すごいなと感心した。きっとこれが当時のリアルなのだろうと思わせられる。
この後の義経は頼朝に滅ぼされるだけのような気がして、全4巻の残り2巻分も書くことがあるのかなと思わなくもないのだが、続きが楽しみだ。
著者
登場する人物
源義経/静御前/武蔵坊弁慶/源頼朝/土佐坊昌俊/片岡経春
関連する作品
前作
元となった作品