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「ロスト・ケア」 2023

ロストケア

★★★★☆

 

あらすじ

 民家で高齢者と訪問介護センターの所長が死んでいるのが見つかり、真相を探っていた検事は、仕事熱心で評判の良い介護士の不審な行動に気付く。

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 松山ケンイチ、長澤まさみ、柄本明ら出演。114分。

 

感想

 不審な事件の真相を探る女検事が主人公だ。民家で高齢者と担当でもない介護センターの人間が一緒に死んでいたというのは確かに不思議な事件で、何があったのかと興味をそそられる。だが、あっさりと犯人が見つかってしまった。ならば取り調べで検事と犯人の心理戦が繰り広げられるのかと思ったが、これもあっさりと犯人が自白してしまい、序盤はかなり拍子抜けしてしまう。

 

 そして描かれるのは、介護問題だ。この映画はミステリーではなかった。介護の厳しい現実が描かれ、それに対処するために行動した犯人の信念が語られていく。親の介護で生活がボロボロになり、困窮して精神も参っていく人々の姿には心が痛むし、親の死によって介護から解放され、安堵してしまう気持ちがあるのもよく理解できる。ただ、よくある話で、わざわざ言われなくても分かりそうなことではある。

 

 

 だが最近は、現役世代の負担が大きい社会保険料を減らそうと主張する人が多いようなので、改めてちゃんと描いておくことは意義があることなのかもしれない。社会保険料を減らすということは公的なサポートが減ることで、つまりは親の面倒は子供が全部見ることになる。

 

 親がちゃんと備えていたり、経済的な余裕があれば民間サービスに頼れるが、そうでなければこの映画の登場人物たちのように、仕事や家族を犠牲にして全部自分でやらなければならない。そうなれば、手取りが増えたところでそれですべて消えていくし、それに備えて貯蓄しなければならなくなるので結局は使えない。

 

 今では兄弟のいない人も多いし、独身の人も多いので、もしそうなった場合は犯人のようになってしまう可能性は高い。ぽっくり死んでくれなかったと恨み、誰にも頼れずボロボロになりながら孤独に親を介護する社会は嬉しい?という話だ。将来設計ばっちりで幸せに暮らせるはずの人たちだって、追い詰められて犯罪に走った彼らに傷つけられ、不幸になるようなこともたくさん起きるようになるだろう。

 

 主人公は検事として犯人の行いを責めるが、どう考えても分が悪い。それに、ある程度は犯人を諭すことも必要かもしれないが、そこまで居丈高に説教されると逆に反感を覚えてしまう。安易な正論を吐いて気持ちよくなっていたのに言い返されて、反論できずに最終的には感情的になって怒鳴るなんて、駄目なおじさんのムーブと同じだ。

 

 主人公の主張や戸田菜穂演じる被害者の怒りで、一応は犯人を全肯定していない形になっているが、それでもおおむね犯人が正しいよね、という空気になっているのはあまり良くない気がする。昔話「姥捨て山」みたいに、「合理的なシステムではあるかもしれない。だけど…」とその先を描いて欲しかった。

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 介護問題としては描き方が浅いが、メインキャストである長澤まさみと松山ケンイチの演技で惹きつけられる映画だ。泣ける話でもある。ラストの拘置所での面会シーンで、主人公の話を聞く松山ケンイチはとてもいい表情をしていた。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 前田哲

 

脚本 龍居由佳里

 

原作 ロスト・ケア (光文社文庫)

 

出演

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長澤まさみ/鈴鹿央士/坂井真紀/戸田菜穂/峯村リエ/加藤菜津/やす/岩谷健司/井上肇/綾戸智恵/梶原善/藤田弓子

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ロストケア

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ロスト・ケア - Wikipedia

 

 

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